
激愛~たとえ実らない恋だとしても~
第14章 第四話・其の参
「そなたが矢代か」
御客会釈の職にある矢代は当然ながら、お目見え以上の身分であるが、美空付きではない。拝謁を許されているゆえ、確かに顔に見憶えはあるものの、こうして間近で直接言葉を交わしたのは初めてのことである。
「これは御台さま、おん自ら直々にこのような場所にお越し頂けるとは思うてもおらなんだことにござります」
矢代は今年、二十三になる。美空とほぼ同年といって良い。小柄な体軀に色白の小顔で、造作そのものというよりは、全体的に整った顔立ちの女であった。
ここに連れてこられた時、地味な小袖に着替えさせられたのであろう。確かにきらびやかな打掛も似合うには違いないが、紺地の沈んだ色がかえって矢代の膚の美しさを際ただせている。顔そのものは、あどけないと言って良いほどなのに、どこか蝶を惑わす花が持つ魔力のような色香を持っていた。
伏し目がちでおとなしやか、第一印象だけでいえば、恐らくは人眼に立たぬ控えめさを備えているはずであろうのに、どこか人を惹きつける。不思議な存在感のある女だ。
矢代もまた、すぐに美空だと判ったようだ。
両手をついて頭を垂れるのに、美空は片手でそれを制した。
「堅苦しい挨拶は無用。今日は何も世間話をしにここへ参ったわけではない。そなたのことゆえ、私が何故、来たのかはもう判っておるのであろう」
美空が言うと、矢代はゆるゆると首を振った。
「既に申し上げるべきことはすべて、お目付にお話し致しました」
「既に詮議は終わったと申すか?」
美空が問うと、矢代は薄く笑った。
「お目付は明日も引き続き、詮議はあると申されましたが、それはあくまでも建て前上のことにて、実際の詮議は既に終わっているも同然にございましょう」
御客会釈の職にある矢代は当然ながら、お目見え以上の身分であるが、美空付きではない。拝謁を許されているゆえ、確かに顔に見憶えはあるものの、こうして間近で直接言葉を交わしたのは初めてのことである。
「これは御台さま、おん自ら直々にこのような場所にお越し頂けるとは思うてもおらなんだことにござります」
矢代は今年、二十三になる。美空とほぼ同年といって良い。小柄な体軀に色白の小顔で、造作そのものというよりは、全体的に整った顔立ちの女であった。
ここに連れてこられた時、地味な小袖に着替えさせられたのであろう。確かにきらびやかな打掛も似合うには違いないが、紺地の沈んだ色がかえって矢代の膚の美しさを際ただせている。顔そのものは、あどけないと言って良いほどなのに、どこか蝶を惑わす花が持つ魔力のような色香を持っていた。
伏し目がちでおとなしやか、第一印象だけでいえば、恐らくは人眼に立たぬ控えめさを備えているはずであろうのに、どこか人を惹きつける。不思議な存在感のある女だ。
矢代もまた、すぐに美空だと判ったようだ。
両手をついて頭を垂れるのに、美空は片手でそれを制した。
「堅苦しい挨拶は無用。今日は何も世間話をしにここへ参ったわけではない。そなたのことゆえ、私が何故、来たのかはもう判っておるのであろう」
美空が言うと、矢代はゆるゆると首を振った。
「既に申し上げるべきことはすべて、お目付にお話し致しました」
「既に詮議は終わったと申すか?」
美空が問うと、矢代は薄く笑った。
「お目付は明日も引き続き、詮議はあると申されましたが、それはあくまでも建て前上のことにて、実際の詮議は既に終わっているも同然にございましょう」
