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激愛~たとえ実らない恋だとしても~

第14章 第四話・其の参

「確かに、そなたの申すとおりじゃな。私もここに来る前、詮議は明日も行われると聞いた。されど、この部屋の前で監視についている者どもは、そなたの仕置きは既に決まっておると申す。はてさて、面妖なることじゃ。詮議はまだ残っておるというに、詮議の前に仕置きが決まるとはの」
 矢代が艶然と笑った。
「つまりは、そういうことにございます。私の詮議なぞ端から無くても良きものだったのでございましょう。要は大奥から科人を、しかも到底捨て置けぬほどの大罪人を出すこと、それが狙いで仕組まれた事件にございます。私は、さしずめ、おめおめと敵の術中にはまった愚かな虫にございましょう」
 自分を卑下する風もなく、矢代は冷静な声音で言う。
 やはり、そうなのか。美空はこの部屋に脚を踏み入れた時、咄嗟に浮かんだ考えがけして外れてはいなかったことを確信した。
「ご聡明なる御台さまこそ、すべてをご存じでここにおいでになったはず。今になって、この私に一体何をお訊ねになられたいと仰せなのでしょうか」
 美空は勢い込んだ。
「それも、そなたは既に承知の上なのであろう、矢代? それでも聞きたいと申すなら、私も言おう。矢代、今回の事は確かに陰謀―、もしくは策略じゃ。それも、そなたの読んだとおり、この大奥を追いつめようとする何者かの腹黒い企みよ。だが、私は、そなたをも、この大奥をも何とかして救いたい。矢代、頼むゆえ、正直に聞かせてはくれぬか。そなたは真に役者瀬川市助なる者と情を通じたのか」
 すべてを言いきって、美空は固唾を呑んで矢代を見つめた。
 短い沈黙が流れる。
 矢代がホウと小さな吐息を洩らした。
「それをお訊きになって、いかがなされますか」

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