
激愛~たとえ実らない恋だとしても~
第14章 第四話・其の参
「さようでございましたか。公方さまというお方がいらっしゃる御台さまにはお訊ねしてはならぬことかと思うておりましたが、御台さまの恋のお相手は公方さまにございますね。御台さまはお幸せなお方にございます。惚れた殿方に添うて、そのお方のお側にいられる。女子にとって、これほどの冥利がございましょうか」
矢代はここで小さな息をついた。
「でも、そんな御台さまでいらっしゃれば、私のこの心も判って頂けるのではないかと存じます。ひとめ逢ったそのときから、その男だけしか眼に入らず、その男のことしか考えられなくなるような、烈しくて切ないけれど、幸せな恋を―」
「では、初瀨が老中の堀田に語ったというのは」
流石に美空が言い淀むと、矢代はしっかりとした口調で頷いた。
「すべて真実にございます。むろん、私と市さまの拘わりについて、という点のみにはございますが。大方は、今頃は市さまの許へもお目付の配下の手が回っているでしょうが、あの人も私と同じ気持ちでいてくれると私は信じております。されど、市さまと逢っていることをまさか、初瀨どのに知られているとは存じませんでした。事が露見致せば、大奥総取締である永瀬さまにもひとかたならぬご迷惑をおかけすることが判っておりながら、今回のことは全くの私の手落ちにございます」
「堀田の目論みは、そなたとて判っておろう。そなた一人を悪者に仕立て上げ、更にはそのような不心得者を出した大奥の風紀をただすとか何とか申して、また倹約、経費節減云々と無理難題を永瀬に申してくるに決まっておるではないか。それが判っていながら、何故、自ら進んで科人になろうとする」
美空が懸命に説得しても、矢代は首を振るばかりだ。
「初瀨どのが堀田さまにいかほどのことを申したのかは知りません。ですが、私の罪に関しては弁明のしようもございませんし、また、する気もございませぬ」
矢代はここで小さな息をついた。
「でも、そんな御台さまでいらっしゃれば、私のこの心も判って頂けるのではないかと存じます。ひとめ逢ったそのときから、その男だけしか眼に入らず、その男のことしか考えられなくなるような、烈しくて切ないけれど、幸せな恋を―」
「では、初瀨が老中の堀田に語ったというのは」
流石に美空が言い淀むと、矢代はしっかりとした口調で頷いた。
「すべて真実にございます。むろん、私と市さまの拘わりについて、という点のみにはございますが。大方は、今頃は市さまの許へもお目付の配下の手が回っているでしょうが、あの人も私と同じ気持ちでいてくれると私は信じております。されど、市さまと逢っていることをまさか、初瀨どのに知られているとは存じませんでした。事が露見致せば、大奥総取締である永瀬さまにもひとかたならぬご迷惑をおかけすることが判っておりながら、今回のことは全くの私の手落ちにございます」
「堀田の目論みは、そなたとて判っておろう。そなた一人を悪者に仕立て上げ、更にはそのような不心得者を出した大奥の風紀をただすとか何とか申して、また倹約、経費節減云々と無理難題を永瀬に申してくるに決まっておるではないか。それが判っていながら、何故、自ら進んで科人になろうとする」
美空が懸命に説得しても、矢代は首を振るばかりだ。
「初瀨どのが堀田さまにいかほどのことを申したのかは知りません。ですが、私の罪に関しては弁明のしようもございませんし、また、する気もございませぬ」
