
激愛~たとえ実らない恋だとしても~
第14章 第四話・其の参
―一生に一度の本気の恋でございますから。公方さまに恋をなさっておられる御台さまであれば、私の気持ちはご理解頂けますでしょう?
無垢な少女のような顔で囁かれ、美空は言葉を失った。
果たして、我が身が矢代の立場であったとしたら。
美空は、この女のように胸を張って堂々と言えるだろうか。一生に一度の恋のためなら、この身を滅ぼしても厭わぬ、と。
美空は最早、何も返すべき言葉を持たなかった。そこまで覚悟して臨んだ生命賭けの恋。 その凜とした花のような潔さに心衝かれたのだ。そして、数日前、御年寄永瀬の言った言葉が今更ながらに耳奥に甦った。
―一生奉公といえば、生涯殿方にも嫁がず、女の歓びも幸せも一切知らずに終わるものにござります。好いた惚れたの心も何たるかを知らず、ただ公方さまを第一に忠勤を励んで一生を終わる―、もとより、それは自らの選びし道なれば、いささかの悔いもござりませぬが、さりとて、何の歓びも愉しみも知らずでは、あまりに哀れ。大奥の女たちが衣装や芝居に現を抜かすのにも、また、それなりの理由というものがあるのでございます。
生涯を嫁がず、未婚のまま終える覚悟で大奥勤めに上がる女たち。高位の役職にまで上りつめた者の大半は、その一生を大奥で終えることも少なくはない。女の幸せも歓びも知らず、ただ将軍家のために、大奥のためにと一途に奉公に励む日々に悔いはないけれど、そんな女たちのささやかな愉しみ―、衣裳に多少の金をかけ、工夫を凝らして美しく装うとすることを大目に見て欲しい。
永瀬は、そう言った。
あの言葉は、他ならぬ永瀬自身の心情の吐露ではなかったろうか。そして、実のところ、永瀬の抱く想いを大奥の女中たちの誰もが抱いているのではないか。
そんな日々であってみれば、矢代がふと出逢った歌舞伎役者に心奪われ、燃えるような恋に身を委ねたのも判るような気がするのだった。
無垢な少女のような顔で囁かれ、美空は言葉を失った。
果たして、我が身が矢代の立場であったとしたら。
美空は、この女のように胸を張って堂々と言えるだろうか。一生に一度の恋のためなら、この身を滅ぼしても厭わぬ、と。
美空は最早、何も返すべき言葉を持たなかった。そこまで覚悟して臨んだ生命賭けの恋。 その凜とした花のような潔さに心衝かれたのだ。そして、数日前、御年寄永瀬の言った言葉が今更ながらに耳奥に甦った。
―一生奉公といえば、生涯殿方にも嫁がず、女の歓びも幸せも一切知らずに終わるものにござります。好いた惚れたの心も何たるかを知らず、ただ公方さまを第一に忠勤を励んで一生を終わる―、もとより、それは自らの選びし道なれば、いささかの悔いもござりませぬが、さりとて、何の歓びも愉しみも知らずでは、あまりに哀れ。大奥の女たちが衣装や芝居に現を抜かすのにも、また、それなりの理由というものがあるのでございます。
生涯を嫁がず、未婚のまま終える覚悟で大奥勤めに上がる女たち。高位の役職にまで上りつめた者の大半は、その一生を大奥で終えることも少なくはない。女の幸せも歓びも知らず、ただ将軍家のために、大奥のためにと一途に奉公に励む日々に悔いはないけれど、そんな女たちのささやかな愉しみ―、衣裳に多少の金をかけ、工夫を凝らして美しく装うとすることを大目に見て欲しい。
永瀬は、そう言った。
あの言葉は、他ならぬ永瀬自身の心情の吐露ではなかったろうか。そして、実のところ、永瀬の抱く想いを大奥の女中たちの誰もが抱いているのではないか。
そんな日々であってみれば、矢代がふと出逢った歌舞伎役者に心奪われ、燃えるような恋に身を委ねたのも判るような気がするのだった。
