
激愛~たとえ実らない恋だとしても~
第14章 第四話・其の参
この桜は、矢代の部屋から見た桜だろうか。
眼を凝らしてみると、淡い夕闇の底にひっそりと沈んだ白い花がほのかに浮き上がってくる。奥庭の至る場所で見かける桜とは違い、殆ど白といって良いほどの花の色、普通の桜が散り始める頃に満開を迎える不思議な桜だ。見た目は八重桜に酷似していて、薄い花びらが幾重にも重なっている。花期の長いのが特徴で、卯月の末になって漸く散り始めるのだ。
この花を、花びらが散るさまを、矢代もまた見ているのだろうか。
美空がそう思って矢代のいる部屋の方を振り返っても、既に細く開いていたはずの丸窓の障子はきっちりと閉じられていた。
華やかでありながら、清々しい花だと、矢代は言った。桜は潔く散るからこそ、清々しいのだろうとも。
雫を帯び、ひそやかに夕闇に開く白い花は、何故か矢代の微笑みを彷彿とさせる。殊に、桜の清々しさが好きだと語ったときの矢代の微笑は、花のような凜とした笑顔であった。
従容として自らのさだめに身を委ねようとしているその潔さには、散りゆく桜の清々しさに通ずるものがある。
美空は物想いに耽りながら、いつまでも薄闇に浮かぶ花を眺め続けていた。
眼を凝らしてみると、淡い夕闇の底にひっそりと沈んだ白い花がほのかに浮き上がってくる。奥庭の至る場所で見かける桜とは違い、殆ど白といって良いほどの花の色、普通の桜が散り始める頃に満開を迎える不思議な桜だ。見た目は八重桜に酷似していて、薄い花びらが幾重にも重なっている。花期の長いのが特徴で、卯月の末になって漸く散り始めるのだ。
この花を、花びらが散るさまを、矢代もまた見ているのだろうか。
美空がそう思って矢代のいる部屋の方を振り返っても、既に細く開いていたはずの丸窓の障子はきっちりと閉じられていた。
華やかでありながら、清々しい花だと、矢代は言った。桜は潔く散るからこそ、清々しいのだろうとも。
雫を帯び、ひそやかに夕闇に開く白い花は、何故か矢代の微笑みを彷彿とさせる。殊に、桜の清々しさが好きだと語ったときの矢代の微笑は、花のような凜とした笑顔であった。
従容として自らのさだめに身を委ねようとしているその潔さには、散りゆく桜の清々しさに通ずるものがある。
美空は物想いに耽りながら、いつまでも薄闇に浮かぶ花を眺め続けていた。
