
激愛~たとえ実らない恋だとしても~
第15章 第四話・其の四
美空が閨に入るなり、家俊は妻の顔をしげしげと見た。
「気分でも悪いのではないか。随分と疲れているように見える」
妻の健康を気遣う良人に、美空は淡く微笑した。
「いえ、たいしたことはござりませぬ。お気遣い、ありがとうございまする」
そう言い終えない中に、家俊の手が伸び、美空の手首を掴む。そのまま力を込めて引き寄せられ、美空は呆気なく良人の逞しい胸に倒れ込んだ。
顔が仰のけられ、唇が重なろうとする寸前、美空がふっと顔を背けた。
「どうしたのだ、やはり、今宵の美空はおかしいぞ」
家俊は無理に迫ってくるわけでもなく、あっさりと身を離す。
美空は小さく頭を下げた。
「申し訳ございませぬ」
美空が無理に微笑もうとすると、家俊が眉根を寄せた。
「おい、美空。俺たちが一体、何年夫婦をやっていると思うんだ? もう五年だぞ? そなたがまた何か一人でうだうだと悩んでいると、この俺が見抜けぬとでも考えているのか? 俺の眼はそのように節穴ではない」
「―」
美空が再びうつむこうとするのに、家俊は咄嗟に顎を軽く掴む。
「待て。眼を逸らすな。俺の顔を真っすぐ見ろ」
家俊は軽い吐息を洩らした。
「そなたは、いつもそうだ。勝手に悩んで一人で考えて、一人で決断する。その挙げ句に、また一人で突っ走ってゆくんだ」
いつだったか、これと同じ科白をやはり家俊に言われたような気がする。
そう、あれは所帯を持ったばかりの頃だった。初めての子を宿したと知った時、美空は家俊にそのことをなかなか打ち明けられなかった。自らについて何も話さない―明らかに美空に対して秘密を持っているらしい家俊が美空の懐妊を疎ましいものに思うのではないかと案じたからであった。
「気分でも悪いのではないか。随分と疲れているように見える」
妻の健康を気遣う良人に、美空は淡く微笑した。
「いえ、たいしたことはござりませぬ。お気遣い、ありがとうございまする」
そう言い終えない中に、家俊の手が伸び、美空の手首を掴む。そのまま力を込めて引き寄せられ、美空は呆気なく良人の逞しい胸に倒れ込んだ。
顔が仰のけられ、唇が重なろうとする寸前、美空がふっと顔を背けた。
「どうしたのだ、やはり、今宵の美空はおかしいぞ」
家俊は無理に迫ってくるわけでもなく、あっさりと身を離す。
美空は小さく頭を下げた。
「申し訳ございませぬ」
美空が無理に微笑もうとすると、家俊が眉根を寄せた。
「おい、美空。俺たちが一体、何年夫婦をやっていると思うんだ? もう五年だぞ? そなたがまた何か一人でうだうだと悩んでいると、この俺が見抜けぬとでも考えているのか? 俺の眼はそのように節穴ではない」
「―」
美空が再びうつむこうとするのに、家俊は咄嗟に顎を軽く掴む。
「待て。眼を逸らすな。俺の顔を真っすぐ見ろ」
家俊は軽い吐息を洩らした。
「そなたは、いつもそうだ。勝手に悩んで一人で考えて、一人で決断する。その挙げ句に、また一人で突っ走ってゆくんだ」
いつだったか、これと同じ科白をやはり家俊に言われたような気がする。
そう、あれは所帯を持ったばかりの頃だった。初めての子を宿したと知った時、美空は家俊にそのことをなかなか打ち明けられなかった。自らについて何も話さない―明らかに美空に対して秘密を持っているらしい家俊が美空の懐妊を疎ましいものに思うのではないかと案じたからであった。
