
激愛~たとえ実らない恋だとしても~
第15章 第四話・其の四
あの時、美空は悪阻で何も喉が通らない日が続き、とうとう空腹で倒れてしまった。そんな美空に家俊は真顔で言ったのだ。
―もうこれからは何でも一人で背負わないでくれ。お前はいつも一人で悩んで、一人で勝手に決めてしまう。だが、俺たちは家族だ。これからは嬉しいことだけでなく、辛いことも苦しいことも俺に一緒に背負わせてくれ。
あの瞬間、美空は家俊と初めて本当の夫婦になれたように思えたものだ。夫婦というだけではなく、家族。何と素敵な響きだろうと思った。二歳で母を、十二で父を喪った美空にって、良人である家俊だけがたった一人、〝家族〟と呼べる人だった。
あれから六年、二人の間には次々に子が生まれ、家族は五人になった。住む場所も立場もあの頃とは全く違ってしまったけれど、今でも変わらず家俊は大切な家族だ。
そう、夫婦であれば、家族であれば。
思い切って心の内を伝えてみれば良いではないか。
美空は家俊の言葉に背を押されたように思った。
「上さま。今日、私は矢代という奥女中に逢うて参りました」
家俊の眼を見つめながら、ひと息に言う。
刹那、家俊の端整な顔が心もち強ばったように見えた。
「美空、そなた、矢代なる者が何をしでかしたか存じておるのか」
このひと言で、当然ながら、家俊が今回の騒動を既に知っていることが自ずと判る。
「はい、存じておりまする」
美空は頷いた。
「その上で、矢代に御台所であるそちが直々に逢いにいったとは、いかなる了見なのだ」
家俊の声が低くなった。機嫌が悪くなった証だ。しかし、今夜ばかりは美空も怯まなかたった。
「矢代に問いただしたいことがあったからにございます」
―もうこれからは何でも一人で背負わないでくれ。お前はいつも一人で悩んで、一人で勝手に決めてしまう。だが、俺たちは家族だ。これからは嬉しいことだけでなく、辛いことも苦しいことも俺に一緒に背負わせてくれ。
あの瞬間、美空は家俊と初めて本当の夫婦になれたように思えたものだ。夫婦というだけではなく、家族。何と素敵な響きだろうと思った。二歳で母を、十二で父を喪った美空にって、良人である家俊だけがたった一人、〝家族〟と呼べる人だった。
あれから六年、二人の間には次々に子が生まれ、家族は五人になった。住む場所も立場もあの頃とは全く違ってしまったけれど、今でも変わらず家俊は大切な家族だ。
そう、夫婦であれば、家族であれば。
思い切って心の内を伝えてみれば良いではないか。
美空は家俊の言葉に背を押されたように思った。
「上さま。今日、私は矢代という奥女中に逢うて参りました」
家俊の眼を見つめながら、ひと息に言う。
刹那、家俊の端整な顔が心もち強ばったように見えた。
「美空、そなた、矢代なる者が何をしでかしたか存じておるのか」
このひと言で、当然ながら、家俊が今回の騒動を既に知っていることが自ずと判る。
「はい、存じておりまする」
美空は頷いた。
「その上で、矢代に御台所であるそちが直々に逢いにいったとは、いかなる了見なのだ」
家俊の声が低くなった。機嫌が悪くなった証だ。しかし、今夜ばかりは美空も怯まなかたった。
「矢代に問いただしたいことがあったからにございます」
