
激愛~たとえ実らない恋だとしても~
第15章 第四話・其の四
「身を飾るのは女子の愉しみの一つにございます」
美空が切り返すと、家俊はますます不機嫌になる。
「そのようなことは判っておるわ。だが、大奥の好き放題にさせておれば、この先、いかほどの金を使うか判らぬ。早い中に手を打っておかねばならぬでな」
「それで多少の荒療治は必要と、こたびの事件を最大限にご活用なさるおつもりでございますね。それにしては、いささか荒療治がすぎるのではございませぬか」
「美空、そなた、一体、何が言いたい? 俺はそちが何のことを申しておるのか、さっぱり判らぬぞ」
家俊の心底不思議そうな顔に、美空は続けた。
「上さま。こたびの騒動は仕組まれたものにございます。言うなれば、罠―、しかも大奥を追いつめようと、巧妙に用意された悪質な罠にございます」
「罠?」
「さようにございます。上さま。今回の事件についての全容は、恐らく上さまのお耳に入っておることに相違はございませんでしょう。御客会釈矢代が瀬川某と通じていたのも事実、そして、お次初瀨が老中堀田に矢代の密通を訴え出たのも事実。さりながら、初瀨は何者かに唆され、踊らされたのでございます」
矢代と対面して帰った後、美空は智島にひそかに命じた。矢代の罪を密告した初瀨の身辺について最近、特に新しい動きはなかったかどうか至急に調べて欲しいと。
姐御膚で面倒見も良い智島は、愕くほどの情報通でもある。わずか一刻余りでそれだけのことを調べてきた。その報告を聞きながら、美空は自分の推量が外れてはいなかったことを確信したのだ。
美空が切り返すと、家俊はますます不機嫌になる。
「そのようなことは判っておるわ。だが、大奥の好き放題にさせておれば、この先、いかほどの金を使うか判らぬ。早い中に手を打っておかねばならぬでな」
「それで多少の荒療治は必要と、こたびの事件を最大限にご活用なさるおつもりでございますね。それにしては、いささか荒療治がすぎるのではございませぬか」
「美空、そなた、一体、何が言いたい? 俺はそちが何のことを申しておるのか、さっぱり判らぬぞ」
家俊の心底不思議そうな顔に、美空は続けた。
「上さま。こたびの騒動は仕組まれたものにございます。言うなれば、罠―、しかも大奥を追いつめようと、巧妙に用意された悪質な罠にございます」
「罠?」
「さようにございます。上さま。今回の事件についての全容は、恐らく上さまのお耳に入っておることに相違はございませんでしょう。御客会釈矢代が瀬川某と通じていたのも事実、そして、お次初瀨が老中堀田に矢代の密通を訴え出たのも事実。さりながら、初瀨は何者かに唆され、踊らされたのでございます」
矢代と対面して帰った後、美空は智島にひそかに命じた。矢代の罪を密告した初瀨の身辺について最近、特に新しい動きはなかったかどうか至急に調べて欲しいと。
姐御膚で面倒見も良い智島は、愕くほどの情報通でもある。わずか一刻余りでそれだけのことを調べてきた。その報告を聞きながら、美空は自分の推量が外れてはいなかったことを確信したのだ。
