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激愛~たとえ実らない恋だとしても~

第15章 第四話・其の四

 美空は、智島から聞いた話を逐一、家俊に話して聞かせた。その話に耳を傾けていた家俊がホウと吐息をつく。
「されど、こたびのこと、堀田が仕組んだ罠だと公に証明することは難しかろう。そなたの話には不自然なところはないし、推量も当たってはおろうが、何せよ、証拠がない。証がなければ、堀田を断罪することはできぬぞ。それに、そなたの申すとおりであれば、矢代とやらの罪は真実なのであろう。堀田がなしたことは、矢代の罪を明らかにするための手段―つまり、苦肉の策と取れぬこともない。裏腹に、矢代の罪は罪として裁かねばならず、その罪をなかったことにすることはできぬ」
 美空はゆるゆると首を振った。
「上さま、私は何も堀田どのを断罪して頂きたいと申し上げているのではございませぬ。それは―最初は、私も矢代の生命を救うてやることができればと思うておりましたが、本日、彼(か)の者と逢い、よくよく話してみて、それが大きな見当違いであることが判りました。矢代は、私にこのように申したのでござます。瀬川市助との恋は一生に一度の恋ゆえ、その恋のために身を滅ぼすことに悔いはないと」
「―一生に一度の恋、とな」
 家俊がその言葉をなぞった。
「また、矢代はこうも申しました。市助との恋を罪と呼びたい者は罪と呼ぶが良いが、自分はこの恋を罪だとは思わぬと言うておりました」
 しばらく家俊からいらえはなかった。
「上さま、私は自分が大きな間違いをしていたことに気付きました。私は矢代ほどの女子をむざと死なすは惜しいと思い、何とか生命助けることができればと思うて参りました。されど、当の矢代にとってみれば、いかがなものでございましたか。生命賭けの恋であれば、その恋に殉ずることこそ本望、かえって無用の情けをかけることは仇となりましょう。矢代の望みどおり、市助との恋の道行きに送り出してやることもまた、一つの情けかと」

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