
激愛~たとえ実らない恋だとしても~
第15章 第四話・其の四
「生命賭けの恋か―。何とも烈しい恋だな」
家俊は呟くと、美空を見つめた。
「したが、堀田はどうする? たとえ直接に手を汚さずとも、矢代が堀田の企みの犠牲になったことは確かだ。そなたは、堀田を放っておいて良いのか?」
「上さまも仰せのごとく、残念ながら証拠がございませぬ。堀田どのの姪の瑞音という娘についても、瑞音が初瀨を唆したと、はきと証言できる者は誰もいないのです。それに、堀田は堀田なりに、ご政道のためを思い、風紀をただし、幕府の財政難を救おうとしたことにございます。あの者は策謀家にはござりますが、心底から上さまに忠誠を誓い、信頼するに足る者と存じますゆえ、こたびのことは上さまへの忠心からなしたことと理解するしかございませんでしょう」
「矢代とか申す者には、哀れなことをしたな」
家俊がポツリと言った。
美空はそこで両手をついた。
「上さま、今一つお訊ね致してもよろしうございますか」
「ああ、何だ」
家俊はまだ想いに耽っているような顔である。曖昧な返事を返す良人に、美空は真摯な眼を向けた。
「もう二度と矢代のような犠牲者を出さぬためにも、私は是非、このことだけは上さまにご理解頂きたいのでございます。上さま、矢代が何ゆえ、瀬川市助との恋に走ったか、上さまはその理由がお判りでございましょうや」
「―」
家俊はゆっくりと眼を見開き、美空を見据えたが、家俊の眼は、その切れそうに鋭いまなざしから逃げていた。
「これは矢代が申したわけではございませぬ」
あくまで私の推量でございますがと前置きしてから、美空は続けた。
「矢代は淋しかったのではございませんでしょうか」
家俊は呟くと、美空を見つめた。
「したが、堀田はどうする? たとえ直接に手を汚さずとも、矢代が堀田の企みの犠牲になったことは確かだ。そなたは、堀田を放っておいて良いのか?」
「上さまも仰せのごとく、残念ながら証拠がございませぬ。堀田どのの姪の瑞音という娘についても、瑞音が初瀨を唆したと、はきと証言できる者は誰もいないのです。それに、堀田は堀田なりに、ご政道のためを思い、風紀をただし、幕府の財政難を救おうとしたことにございます。あの者は策謀家にはござりますが、心底から上さまに忠誠を誓い、信頼するに足る者と存じますゆえ、こたびのことは上さまへの忠心からなしたことと理解するしかございませんでしょう」
「矢代とか申す者には、哀れなことをしたな」
家俊がポツリと言った。
美空はそこで両手をついた。
「上さま、今一つお訊ね致してもよろしうございますか」
「ああ、何だ」
家俊はまだ想いに耽っているような顔である。曖昧な返事を返す良人に、美空は真摯な眼を向けた。
「もう二度と矢代のような犠牲者を出さぬためにも、私は是非、このことだけは上さまにご理解頂きたいのでございます。上さま、矢代が何ゆえ、瀬川市助との恋に走ったか、上さまはその理由がお判りでございましょうや」
「―」
家俊はゆっくりと眼を見開き、美空を見据えたが、家俊の眼は、その切れそうに鋭いまなざしから逃げていた。
「これは矢代が申したわけではございませぬ」
あくまで私の推量でございますがと前置きしてから、美空は続けた。
「矢代は淋しかったのではございませんでしょうか」
