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激愛~たとえ実らない恋だとしても~

第15章 第四話・其の四

 家俊の視線がゆっくりと動き、美空に当てられた。
「淋しい?」
「言ってみれば、心の隙間とでも申しましょうか。大奥に奉公する女子衆の数は綺羅星のごとくにて、その大半が一生奉公の覚悟で奉公に上がりたる者にございます。一生奉公とは文字どおり生涯嫁がず、この大奥で忠勤を励み、ここに骨を埋める覚悟を持たねばなりませぬ。上さま、これが女にとって何を意味するか、お判りでいらっしゃいましょうか」
 家俊がまた美空の言葉をなぞった。
「生涯嫁がず、ここに骨を埋める覚悟―」
 美空は深く頷く。
 高位の奥女中が外出を許されるのは、せいぜいがひと月に一度だ。代参の参詣を済ませた後、訪れた芝居小屋で見た妖艶な女形瀬川市助は、その女の心の隙間に一瞬にして入り込んだに違いない。素顔の市助は、さっぱりとした男らしい気性の美男だという。
 美貌の奥女中と歌舞伎役者の恋。その哀しくも美しい恋の花は、その心の隙間を埋め、烈しく燃え上がり、いつしか真実の恋に育っていった。
「そこまでの壮絶な決意と覚悟を秘め、彼女たちはこの大奥に上がるのでございます。そんな彼女たちにとって、何が愉しみかといえば、日頃身に纏う衣裳に気を配ったり、多少のお洒落をすることなのです」

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