
激愛~たとえ実らない恋だとしても~
第15章 第四話・其の四
「俺はもしかしたら、大きな間違いをしていたのやもしれぬな。そなたの話を聞いてみて、俺は初めて女心というものが少しは判ったような気がする。俺は将軍になって、躍起になっていた。民のために、幕府のために自分に何ができるかと考え、まずは乱れた世の中を正さねばならぬと思った。そのためには、倹約令を敷き、自らも質素を旨とせねばならぬと思った。むろん、この江戸城大奥においても、これまでのような奢侈贅沢は一切許さぬと意気込んでいたことも事実だ。美空、俺は少し視野が狭くなっていたのだろう。良い将軍になりたくて、政が本来、誰のためにあるべきものか、その大切なことを忘れていた」
―政とは本来、民のためにあり、藩主とはただ偉そうにしていれば良いのではなく、民草のために働くべきものだ。
かつて家俊の異母兄孝次は彼にそう語ったという。
「大切なのは人、最も尊ぶべきなのは人の心だ。人なくして国は成り立たぬ。俺は、将軍になって、いつしか人の心を理解しようとすることを忘れていた」
―初心に戻らねばならぬな、と、家俊は感慨深げに言った。
「上さま、役者遊びや奢侈はけして許されるべきものにはございませぬが、大奥の女たちの現実も何とぞよくよくご覧頂き、その心根もご理解賜ればと存じまする。贅沢に耽るというのではなく、許される範囲で、いささかのお洒落や息抜きをすることをお許し頂ければ、大奥の女たちは皆、上さまのご寛容なるお心に泣いて歓ぶかと存じます」
「―申したな。相変わらず、口の減らぬ女子だ」
家俊は声を立てて笑うと、美空をもう一度抱き寄せた。
―政とは本来、民のためにあり、藩主とはただ偉そうにしていれば良いのではなく、民草のために働くべきものだ。
かつて家俊の異母兄孝次は彼にそう語ったという。
「大切なのは人、最も尊ぶべきなのは人の心だ。人なくして国は成り立たぬ。俺は、将軍になって、いつしか人の心を理解しようとすることを忘れていた」
―初心に戻らねばならぬな、と、家俊は感慨深げに言った。
「上さま、役者遊びや奢侈はけして許されるべきものにはございませぬが、大奥の女たちの現実も何とぞよくよくご覧頂き、その心根もご理解賜ればと存じまする。贅沢に耽るというのではなく、許される範囲で、いささかのお洒落や息抜きをすることをお許し頂ければ、大奥の女たちは皆、上さまのご寛容なるお心に泣いて歓ぶかと存じます」
「―申したな。相変わらず、口の減らぬ女子だ」
家俊は声を立てて笑うと、美空をもう一度抱き寄せた。
