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激愛~たとえ実らない恋だとしても~

第15章 第四話・其の四

 それからほどなく、将軍家俊は、御年寄永瀬に命じて、大奥の御中﨟の中でも特に若く眉目良き娘たちを選抜させ、一堂に集めた。
 上さまの御前に集められた彼女たちは、これでいよいよ自分たちにも運が向いてきたと内心胸を高鳴らせていた。〝御台さまおんひと筋〟と噂される上さまがついに他の女に眼を向けられるときが来たのだ。
 一体、この中の誰が上さまのお眼に止まり、今宵、お褥に侍る栄誉を得るのか。
 誰もが固唾を呑んで上さまの言葉を今か今かと待ち受けていた。
 だが。
 若い将軍は集められた美しい女たちを眺めながら、思いもかけぬことを言ったのだ。
「そちらは今日を限りとして、この大奥を下がることとあいなる。まだ若く美しいそなたらであれば、これより後、良縁を得ていずこへなりとも嫁すこと叶おう。一生は一度しかない。長い人生を先になって振り返った時、ああしておけば良かったと後悔するような、そんな人生は送るな。嫁ぎ、良人を持ち、子を生み育てて家族を持つ歓びをそなたらには是非、味わって欲しい。それでも、なお、この大奥にて一生奉公を望む者あらば、その者はそれだけの覚悟をもって改めて忠勤を励むが良い。良いか、皆の者、必ずや幸せになるのだぞ」
 その諄々とした説得は、その場にいた女たちの心を打った。最後の〝幸せになるのだぞ〟というひと言に、思わず涙ぐむ者もいた。

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