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激愛~たとえ実らない恋だとしても~

第15章 第四話・其の四

 それはさておき。
 大奥での大幅な人員整理が行われたふた月後のある日。
 美空は大奥のひと間に筆頭老中堀田誓頼を呼び出した。
「お呼びとお伺いし、こうしてまかり越しましてございます」
 大奥には〝ご対面の間〟と呼ばれる来客用の座敷がある。対面はそこで行われた。
「それにしてもお珍しきことにございますな。御台さまがそれがしにご用とは」
 誓頼は策略を巡らせるのが殆ど趣味のような、典型的な能吏型の男だ。かといって腹黒いというわけではなく、策略そのものを考えるのが愉しみだというわけらしい。その分、敵も多いが、家俊への忠誠心は本物で、美空の見る限り、家俊にとっては〝使える〟人物であった。
 その誓頼をわざわざこうして御台所自身が呼び出したのには、それなりの理由がある。
 が、美空はその思惑は表面には出さず、穏やかな笑みを浮かべた。
「時に、大奥を下がったそなたの姪は達者でおるか?」
「は―?」
 予期せぬ問いを投げられ、堀田は鳩が豆鉄砲を喰らったような表情でポカンと美空を見つめる。
「確か名は瑞音と申したか。御三の間勤めをしていたというに、惜しいことをしたものじゃな。どこぞに良き嫁ぎ先でもあったのか」
「はっ、あの者なれば、現在は当家にて預かり、色々と花嫁修業なぞさせておるところにございます」
 いつもは沈着な誓頼があわてふためいているのは滑稽でもある。しどろもどろに応える堀田を見、部屋の隅に控える智島が笑いをこらえているのが美空の場所からも見えた。

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