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激愛~たとえ実らない恋だとしても~

第15章 第四話・其の四

「堀田筑前守」
 凛とした声で呼ばれ、堀田はますます畏まった。
「はっ」
「そのように固くならず、面を上げるが良い」
 堀田が恐る恐る顔を上げると、美しい御台所が婉然と微笑んでいた。
「私はまだまだ若く至らぬ身ゆえ、色々と教えて欲しい」
 美空が頭を下げるのに、堀田はまた〝ははっ〟と平伏した。
「筑前守。私は最近一つ、学んだことがある」
「それは、いかなることにございましょうか。私めがお伺い致してもよろしうございますか。後学のため、是非、身共もお聞かせ頂きとうござります」
 堀田がお愛想のように訊ねると、美空は笑った。
「謀を巡らせるのは容易いが、陰謀で人を陥れ科人を作るよりは、人の心を活かすやり方を選んだ方が良いと学んだ。人の心は何も利用するものでもなく、ましてや陥れるために使うものではない。人の心を理解し、人を活かしてこその政ではないのか。のう。堀田筑前守」
 まさに痛烈な皮肉とも取れる科白であった。
 この後、堀田誓頼は這々の体でご対面の間を退出した。
 表御殿の廊下を歩きながら、堀田は苦々しい想いに浸っていた。
 あの御台所は、とんだ女狐だ。自分の娘のような歳の若い御台所に良いようにあしらわれたことも堀田の誇りをいたく傷つけていた。

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