
激愛~たとえ実らない恋だとしても~
第15章 第四話・其の四
御台所はすべてを知っている! あの騒動のからくりを知りながら、何一つそしらぬ風を装い、堀田を呼び出した。そして、自分は堀田の悪企みをすべて知っているのだぞとほのめかしつつ、最後には、今後はこのようなことはせぬようにと釘を刺した。
しかも、艶やかに微笑み
―私はまだまだ若く至らぬ身ゆえ、色々と教えて欲しい。
と来た。
脅しているのか、媚びているのか判らない。若い将軍の寵愛を一身に受けるだけあって、流石は妖艶というか、可憐な面立ちにも拘わらず男をそそる色香のある女だ。
あの笑顔で見つめられ、堅物で知られる堀田でさえ思わず陶然と見惚れてしまったほどだ。若い公方さまが骨抜きになるのは無理もない。
町家上がり、しかも長屋住まいの職人の娘のくせに侮れぬ女だ。あれほどの女子であれば公方さまを色香で誑かし、見事天下の将軍の御台所にまで成り上がったのも頷ける。
だが、あの才知と度胸は女子にしておくのは惜しいほどだ。海千山千と怖れられる筆頭老中を相手にしても、いささかも臆するとこもない。まるで百年も昔から御台所であったかのような貫禄ではないか!
あの食わせ者が女で良かった。これが男であれば、あわや自分の最大の政敵となるところだった。所詮女の身では幾ら才知に長けても、大奥に閉じ込められて大人しくしているしかない。
あの女にはこの先、せいぜい、公方さまを虜にして御子を山のように生んで貰うことを期待しておけば良い。それにしても、これから先も、できれば敵には回したくない相手だ。
堀田は半ばふて腐れた気持ちで憮然として廊下を歩いていった。
しかも、艶やかに微笑み
―私はまだまだ若く至らぬ身ゆえ、色々と教えて欲しい。
と来た。
脅しているのか、媚びているのか判らない。若い将軍の寵愛を一身に受けるだけあって、流石は妖艶というか、可憐な面立ちにも拘わらず男をそそる色香のある女だ。
あの笑顔で見つめられ、堅物で知られる堀田でさえ思わず陶然と見惚れてしまったほどだ。若い公方さまが骨抜きになるのは無理もない。
町家上がり、しかも長屋住まいの職人の娘のくせに侮れぬ女だ。あれほどの女子であれば公方さまを色香で誑かし、見事天下の将軍の御台所にまで成り上がったのも頷ける。
だが、あの才知と度胸は女子にしておくのは惜しいほどだ。海千山千と怖れられる筆頭老中を相手にしても、いささかも臆するとこもない。まるで百年も昔から御台所であったかのような貫禄ではないか!
あの食わせ者が女で良かった。これが男であれば、あわや自分の最大の政敵となるところだった。所詮女の身では幾ら才知に長けても、大奥に閉じ込められて大人しくしているしかない。
あの女にはこの先、せいぜい、公方さまを虜にして御子を山のように生んで貰うことを期待しておけば良い。それにしても、これから先も、できれば敵には回したくない相手だ。
堀田は半ばふて腐れた気持ちで憮然として廊下を歩いていった。
