
激愛~たとえ実らない恋だとしても~
第15章 第四話・其の四
「結果として、私は矢代の生命を救うことができなかった―。たとえ矢代自身が死を潔しとしていても、私は自分の無力さをこれほど感じたことはございませんでした」
自分が矢代をみすみす見殺しにした。
その罪の意識もまたぬぐい去ることはできない。
矢代自身が死を招くことになっても、この恋を貫きたいと言った、その矢代の一途な恋心をまっとうさせてやることもまた情けである。ひと度は家俊にそう言いながらも、美空の心にはやはり、割り切れない感情がいまだにわだかまっていたのだ。
暗澹とした想いに沈む美空の耳を、静かな声が打った。
「一生に一度の恋と胸を張って言えるほどのものなら、恋に生きるのもまた良いのではないか。美空、そなたが俺にそう言ったのだぞ? 何より、矢代は、そなたの救いの手を拒んでまで、自らその恋を選んだのだ。矢代は若くして生命を散らしたが、その心は穏やかであったのではないかと俺は思う」
あたかも、美空の自問自答を読んだかのような家俊の科白だ。
ハッとして振り仰いだその顔は、しかし予想に反してただ優しかった。
「矢代の心は穏やかであったと仰せなのですか? 想う男と離れ、ただ一人遠国へと流された身であっても穏やかであったと―?」
美空が縋るように見上げると、家俊は頷いた。
「ああ、俺はそう思う。美空、矢代は何のために自害をしたのか。何も孤独に死ぬためではない、矢代は今度こそ惚れた男と添い遂げるために死を選んだのだ」
たとえ身は遠くにあっても、互いに現世(うつしよ)に生きていれば、心は繋がっている。市助が現世からいなくなれば、矢代はただ彼を追いかけてゆくだけ。
だから、矢代は死を選んだ。現世からあの世へと旅立った市助の後を追って、自分もまた旅立った。
自分が矢代をみすみす見殺しにした。
その罪の意識もまたぬぐい去ることはできない。
矢代自身が死を招くことになっても、この恋を貫きたいと言った、その矢代の一途な恋心をまっとうさせてやることもまた情けである。ひと度は家俊にそう言いながらも、美空の心にはやはり、割り切れない感情がいまだにわだかまっていたのだ。
暗澹とした想いに沈む美空の耳を、静かな声が打った。
「一生に一度の恋と胸を張って言えるほどのものなら、恋に生きるのもまた良いのではないか。美空、そなたが俺にそう言ったのだぞ? 何より、矢代は、そなたの救いの手を拒んでまで、自らその恋を選んだのだ。矢代は若くして生命を散らしたが、その心は穏やかであったのではないかと俺は思う」
あたかも、美空の自問自答を読んだかのような家俊の科白だ。
ハッとして振り仰いだその顔は、しかし予想に反してただ優しかった。
「矢代の心は穏やかであったと仰せなのですか? 想う男と離れ、ただ一人遠国へと流された身であっても穏やかであったと―?」
美空が縋るように見上げると、家俊は頷いた。
「ああ、俺はそう思う。美空、矢代は何のために自害をしたのか。何も孤独に死ぬためではない、矢代は今度こそ惚れた男と添い遂げるために死を選んだのだ」
たとえ身は遠くにあっても、互いに現世(うつしよ)に生きていれば、心は繋がっている。市助が現世からいなくなれば、矢代はただ彼を追いかけてゆくだけ。
だから、矢代は死を選んだ。現世からあの世へと旅立った市助の後を追って、自分もまた旅立った。
