
激愛~たとえ実らない恋だとしても~
第3章 其の参
「そりゃア、あんた、いけないよ。自分でもそう思うのなら、早くに医者か産婆のところにお行き。あたしも倅を身ごもったときは悪阻(つわり)が烈しくてさ、ろくすっぽ物が食べられなくて、随分と痩せたんだよ」
そう言ってから、まじまじと美空を見つめる。
「そう言やア、美空ちゃん、少し痩せたんじゃないかい? まさか、食事も満足にしてないとかいうんじゃないだろうね」
あまりに咳いて涙眼になっている美空をなおも心配そうに見やり、お民はその肩を軽く叩いた。
「悪いことは言わないから、一日も早く診て貰いな。腹にやや子がいるとなれば、もうあんた一人の身体じゃない。それに、ちゃんと確かめて貰って孝太郎さんにも教えてやりなよ。初めての子だもの、そりゃア、歓ぶよ」
お民は朗らかに笑って言い、立ち上がった。太い腕に、たった今、洗い終えたばかりの大根を何本か抱えている。
「これから大根の煮物を作ろうと思ってさ。どうせ、亭主とあたし二人じゃア、食べ切れやしないんだから、後でお裾分けを持っていくよ」
大根の白色が眼にも眩しいほどだ。
「ありがとうございます」
美空も笑顔で礼を言い、お民はまた、太った身体を揺すりながら歩いていった。
その頼もしい後ろ姿を見送りながら、美空は小さな息を吐く。
本当にそうなのだろうか、もし、懐妊しているのだとして、孝太郎はそのことを素直に歓んでくれるのだろうか。
いまだに良人が自らの素姓について詳しく語ろうとはせぬことに、美空は拘ってはいない。だが―、そんな孝太郎が新たに子が生まれると知って、果たしてどう思うか。そのことについては大いに不安だった。
もし厄介者や邪魔者が増えると思われたら、どうしようかと思うと、医者のところにゆく気にもなれないし、ましてや、確かめる勇気も持てないというのが正直な気持ちだ。
もしかしたら、孝太郎はしがらみを嫌う性分なのかもしれない。だからこそ、己れの家族についても一切喋ろうとはしないのではないか。血族とか血の繋がりとかを必要以上に厭う人間は、いつの世にも存在する。そんな男が我が子の誕生を心から歓迎するとは到底思えない。
そう言ってから、まじまじと美空を見つめる。
「そう言やア、美空ちゃん、少し痩せたんじゃないかい? まさか、食事も満足にしてないとかいうんじゃないだろうね」
あまりに咳いて涙眼になっている美空をなおも心配そうに見やり、お民はその肩を軽く叩いた。
「悪いことは言わないから、一日も早く診て貰いな。腹にやや子がいるとなれば、もうあんた一人の身体じゃない。それに、ちゃんと確かめて貰って孝太郎さんにも教えてやりなよ。初めての子だもの、そりゃア、歓ぶよ」
お民は朗らかに笑って言い、立ち上がった。太い腕に、たった今、洗い終えたばかりの大根を何本か抱えている。
「これから大根の煮物を作ろうと思ってさ。どうせ、亭主とあたし二人じゃア、食べ切れやしないんだから、後でお裾分けを持っていくよ」
大根の白色が眼にも眩しいほどだ。
「ありがとうございます」
美空も笑顔で礼を言い、お民はまた、太った身体を揺すりながら歩いていった。
その頼もしい後ろ姿を見送りながら、美空は小さな息を吐く。
本当にそうなのだろうか、もし、懐妊しているのだとして、孝太郎はそのことを素直に歓んでくれるのだろうか。
いまだに良人が自らの素姓について詳しく語ろうとはせぬことに、美空は拘ってはいない。だが―、そんな孝太郎が新たに子が生まれると知って、果たしてどう思うか。そのことについては大いに不安だった。
もし厄介者や邪魔者が増えると思われたら、どうしようかと思うと、医者のところにゆく気にもなれないし、ましてや、確かめる勇気も持てないというのが正直な気持ちだ。
もしかしたら、孝太郎はしがらみを嫌う性分なのかもしれない。だからこそ、己れの家族についても一切喋ろうとはしないのではないか。血族とか血の繋がりとかを必要以上に厭う人間は、いつの世にも存在する。そんな男が我が子の誕生を心から歓迎するとは到底思えない。
