
激愛~たとえ実らない恋だとしても~
第5章 第二話〝烏瓜(からすうり)〟・其の壱
「それは、また、随分とご信頼頂いておらるるることで、結構でございますね」
唐橋はわざとらしく肩をすくめ、さっと傍らによけて膝をつく。それに倣い、後ろに続く若い奥女中たちもその後ろに従った。一同が膝を揃え、手を付いて頭を下げる中、美空は彼女たちが居並んだ前を通り過ぎようとする。
その一瞬。
唐橋の後ろに続く女たちの間からぬっと白い手が伸びて、美空の打掛の裾を捉えた。その拍子に、美空の身体が傾ぎ、前方へとつんのめる。
後ろで智島の悲鳴が上がった。
咄嗟に片手をついたから良かったようなものの、まともに倒れていたとすれば、顔面を廊下にしたたか打ち付けていただろう。
右手を付いたまま、茫然と座り込む美空に唐橋が心配そうな声を投げかけた。
だが、それが見せかけだけのものであることくらい、この場にいる誰もが知っている。
「大事ございませぬか、ご簾中さま」
と、若い奥女中たちから、クスと忍び笑いが洩れた。それを合図とするかのように、。くっくっという笑いが漣のように女たちの間にひろがる。
「唐橋どの。これは一体、いかなることにごりましょそれをうや。私はたった今、確かにこの眼で見ましたぞ。ご簾中さまの打掛の裾をそこの者が掴むのを」
智島は居並ぶ奥女中たちの真ん中にいる一人の娘を指さした。その娘の顔色が蒼褪める。
これには、唐橋も顔色を変えた。
「何を言いがかりをつけると思えば、誤解もはなはだしい。何ゆえ、その者がご簾中さまにそのようなことをする必要がある? 何より、そこの者はこの尾張さまに初代さまの御世よりお仕えするれきとした譜代の家臣の娘、氏素性正しき者がそのような下賤な者どものような短慮なことをするはずがござりませぬ」
侍女の身分の方が元を正せばご簾中よりも高いのだと―どこまでも棘のある科白に、智島がますます柳眉を逆立てた。
美空は惨めな気持ちでゆるゆると身を起こす。奥女中たちの視線が一斉に自分に向けられているのをひしひしと感じた。
唐橋は、そんな美空を醒めた眼で眺めている。
唐橋はわざとらしく肩をすくめ、さっと傍らによけて膝をつく。それに倣い、後ろに続く若い奥女中たちもその後ろに従った。一同が膝を揃え、手を付いて頭を下げる中、美空は彼女たちが居並んだ前を通り過ぎようとする。
その一瞬。
唐橋の後ろに続く女たちの間からぬっと白い手が伸びて、美空の打掛の裾を捉えた。その拍子に、美空の身体が傾ぎ、前方へとつんのめる。
後ろで智島の悲鳴が上がった。
咄嗟に片手をついたから良かったようなものの、まともに倒れていたとすれば、顔面を廊下にしたたか打ち付けていただろう。
右手を付いたまま、茫然と座り込む美空に唐橋が心配そうな声を投げかけた。
だが、それが見せかけだけのものであることくらい、この場にいる誰もが知っている。
「大事ございませぬか、ご簾中さま」
と、若い奥女中たちから、クスと忍び笑いが洩れた。それを合図とするかのように、。くっくっという笑いが漣のように女たちの間にひろがる。
「唐橋どの。これは一体、いかなることにごりましょそれをうや。私はたった今、確かにこの眼で見ましたぞ。ご簾中さまの打掛の裾をそこの者が掴むのを」
智島は居並ぶ奥女中たちの真ん中にいる一人の娘を指さした。その娘の顔色が蒼褪める。
これには、唐橋も顔色を変えた。
「何を言いがかりをつけると思えば、誤解もはなはだしい。何ゆえ、その者がご簾中さまにそのようなことをする必要がある? 何より、そこの者はこの尾張さまに初代さまの御世よりお仕えするれきとした譜代の家臣の娘、氏素性正しき者がそのような下賤な者どものような短慮なことをするはずがござりませぬ」
侍女の身分の方が元を正せばご簾中よりも高いのだと―どこまでも棘のある科白に、智島がますます柳眉を逆立てた。
美空は惨めな気持ちでゆるゆると身を起こす。奥女中たちの視線が一斉に自分に向けられているのをひしひしと感じた。
唐橋は、そんな美空を醒めた眼で眺めている。
