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異種間恋愛

第12章 獣の正体と契り

「取り込み中か?」
 強い風と共に誰かの声が花畑の入り口の方から聞えてきてレオが私を大きな身体の後ろに庇った。
 レオの背中で視界が塞がれている為誰がそこにいて、レオがどんな表情をしているのかは分からない。
「ふうん。その女はお前のものだったのか」
 その冷たい声はつい最近聞いたことがあった。
「何か用か?」
「当り前だ。昨日、女が崖から飛び降りたかと思えば大きなライオンが飛んできて、女を背に乗せて去って行った。気にならない訳がない」
 ラドゥ王子……。
 私は一歩踏み出してレオの横に並んだ。
「リア、と言ったか。早く来い、俺の妻になれ」
 昨日のことがあったのに、この我儘な王子はまた同じことをなんのためらいもなく言う。
 悪魔と契約した偽りの王から継がれた地位はさぞ快適だったろう。
「嫌です」
「強情だな。俺の妻になれるなんて幸せが他にこの世にあると思っているのか? その男では無理だろ」
 隣にいるレオの可愛い形をした目が鋭くなった。
 自分を陥れた弟の曾孫にこんなことを言われるなんて、レオはどんなに悔しい思いをしているのだろう。
 私は悔しくなった。
「お前がラドゥか」
 それなのに自分に言い聞かせるように呟いたレオの声は苛立ってはいなかった。むしろ……なにか懐かしむような優しい声色を含ませていた。
「呼び捨てにするとは良い度胸だな」
 ラドゥの声はどこまでも冷たい。氷の刃のようだ。
「リアはお前に渡せない」
 その言葉に不覚にも胸がときめいた。
 こっそりレオの表情を盗み見るとなんとも真剣な顔をしている。
 揺るぎない信念に満ちた青い瞳で真っすぐにラドゥを見据えていた。
「何故だ? お前は何者だ」
 ラドゥもレオの表情に応えるように険しい顔になった。
 向かい合うこの2人……どこか似ているかもしれない。それが何なのかは分からない。
 レオは何も答えない。
 空気が重くなる。
「……お前、どこかで会ったか?」
 先に口を開いたのは質問をしたラドゥの方だった。
「なるほど。記憶が全くないわけではないみたいだな」
 レオまで何を言っているのだろう。
 昨日までライオンだった姿のレオがラドゥと会ったことがあるわけないのに。

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