テキストサイズ

異種間恋愛

第15章 暴かれた婚姻

「さすがだ。礼を言う」
 鎧を脱いだラドゥはすごく嬉しそうにしている。負けたというのに。
 傲慢な王子にしては珍しい反応に私は首を傾げた。
 ストラスも鎧を脱ごうとするが、ラドゥがそれを止めた。
「せっかくだ。ティオン、お前も相手をしてもらえばいい」
「いい加減にして! ストラスは頭が痛むのにこんな重い鎧を長い間被せるなんて」
「是非」 
 ストラスはラドゥに噛みつく私を制するように短く答えた。
 レオは黙々と鎧を身に着ける。
「レオまで、何してるのよ」
 まだ鎧をかぶっていないレオが私を見た。青い瞳が静かに輝いている。
「相手をしてもらうんだ。頭が痛んだらすぐに言ってくれ」
「はい」
 レオとストラスの短い会話に私はあきらめて座り込んだ。
 レオとストラスが向かい合う。二人の表情は見えないが、きっと青と灰色の瞳をそれぞれ真剣に相手に向けているだろう。
 剣先を互いに相手の胸に添えた。
 審判の合図で時が止まった。正確には止まったように感じた。
 違う空間が二人を包み込み、練習場いっぱいに広がった。
 私は自然と両手を胸の前で組んだ。どちらを応援するわけでもなく、ただ二人の独特な空気に取り込まれていた。
 シュッと空を切る音がしてストラスが地面を蹴った。レオもそれに応えるように足を蹴る。
 リズムをとるように小刻みに動く足が二人を演台の上で進んだり後退したりさせている。
 急にレオが前に進みストラスに剣を突きだしたかと思えばストラスが瞬時に剣先を払いのけ、レオのほうへ迫る。
 レオが剣を下のほうに構えているのに対してストラスはそれより少し上のほうで剣を構えている。
 二人にしかわからないであろう剣先でのコミュニケーション。
 床と靴底が擦れる音と剣が重なり合う音が音楽のように心地よく耳に入ってくる。
 
 一気にレオとストラスは接近し、相手の剣を鎧に突き刺した。交差する細い銀色の剣と二人の踏み出した脚。
 一瞬のことで私にはなにがなんだかわからなかったが周りのフェンシングのプロでも状況を理解するのに数秒を要したように、しばらくしてから歓声があがった。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ