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異種間恋愛

第16章 見えない想い

「でも、あの」
 言葉を紡ごうとした口を閉じさせるように秋の始まりを告げる冷たい風が吹いた。
 目に見えないものが私とレオの間を切り裂いた。レオの前髪が揺らめく。
「レオン様。ラドゥ王子にレオン様は神秘文字も読めるとお聞きしましたの。是非教えて下さらないかと思いまして」
 振り返るとキアナさんが立っていた。
 レオは初めて目を開け、ゆっくりと立ち上がる。キアナさんの瞳が輝いた。
「わかった」
 短い了解の返事でキアナさんは笑顔になった。私の体から熱が抜けていく。
「まあ! 本当に教えていただけるなんて思ってませんでしたわ。早く行きましょう」
 レオの黒いシャツの端をさりげなく掴むキアナさんの細い指先が白く、そのコントラストがより私の感情をえぐる。
「あら、ごめんなさい。レオン様お借りしますわね」
 たった今私の存在に気が付いたような素振りで首を傾けて私を見つめるキアナさんの表情はさっきの怒っていた顔と違い、勝ち誇ったような笑みをたたえていた。
「お前は綺麗な顔した幼馴染のところへ早く戻った方がいいんじゃないか?」
「どうして、そんなこと言うの」
 レオは私を見ようともせずに言い放つとキアナと並んで歩きだす。私の声は震えている。
「どうして?」
 レオの足が止まり、キアナが不安そうな顔をしてレオを見上げた。
「ずっと俺を騙していてなにを今さら……。どこまで嘘なんだ? 全部か?」
 レオの声も震えている。
「……あっ」
 急に振り返ったレオの瞳はいつもの青色なのにいつもと違う。息を呑むほど恐ろしく、そして悲しい瞳。
「大切な人のところへ戻れ」
 瞳を伏せてそう言葉を地面へ落とすと再び歩き出す。キアナさんは首を傾げながらも笑顔で相変わらずレオのシャツを掴んだまま甘えたような声を出してレオの顔を窺いながら歩いて行った。
 私は追いかけることも言い返すこともできずにその場に突っ立っていた。
 追いかけて、ストラスとのことを説明すればいいのかもしれない。それでも私はそんなことをする資格がないと思う。
 ストラスに結婚のことを話された後にレオに出会い、何も考えずに好きになってしまった。それだけで婚姻の事実がどうであれ十分すぎる問題なのだ。
「レオ……ごめんなさい」

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