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異種間恋愛

第18章 王子の暗闇

「半分くらいは返している。お前だって都の華やかさを目にしただろ」
 確かに都は華やかだった……でも。
「切なかったわ」
「は?」
「華やかで豪華で、綺麗で……でもね、切ない街だなって思った。あなたたちが殺人を繰り返しているからよ!」
 ラドゥは首を傾げた。
 私は怒りなのか悲しみなのかなんなのか分からない感情がごちゃまぜになって両手両脚を震わせていた。
「たまにはいる。病気にかかったりする奴もいるだろう。だが、殺人鬼にされる覚えはない」
「ふざけないで! じゃあ、どうして連れて行かれた人たちは誰も戻ってこないの?」
 誰も戻ってこない。だから、何が起きているのかわかる人もいない。
 それなのに、この期に及んでなにをまだ隠そうとしているのだろう。
「労働者たちにはその知恵と力が尽きるまで働いてもらわなくてはもったいないだろ。別に殺しているわけではない」
 顔色ひとつ変えることなく言ってのけるラドゥ。
「……民をなんだと思ってるの」
「駒、だな」
 私の鼻が膨らむのが分かる。歯を食いしばり怒りに耐えてみようかと一瞬考えたがそんなことは不可能だった。


――バチンッ



 いつかストラスを叩いた時よりも鈍く痛い音が響く。
 手がじんじんと痛む。
 それでも、私の怒りは収まらない。
「そんなにチェスがしたいなら、あんたが先に駒になりなさいよ!」
 叩かれたラドゥは呆然として真っ赤な顔で怒鳴り散らす私を見つめる。
「皆ね、皆、すごくすごく我慢して我慢して……大切な人を送り出す人も送り出される人もどんな気持ちなのか考えたことがあるの!? あんたたちが駒って呼んでる人たちは誰かの最愛の人なの! お腹を痛めて生んだ子で、仕事をして養いながら大事に見守ってきた子で、喧嘩したりしながらも支えあってきた兄妹や友達で、深く愛し合ってきた恋人なのよ!」
 怒りのせいか、怒鳴っていると息切れが酷くなってきて私は一人で一生懸命息を整える。

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