テキストサイズ

異種間恋愛

第18章 王子の暗闇

「私が誘ったの!」
「リア?」
「私、ラドゥの正室になりたかったから……だから、自分でドレスを裂いたのよ」
 ああ、今私は上手に演技ができてるだろうか。
 悪い女になりきれているだろうか。レオをちゃんと突き放すことができているのだろうか。
「あら、なんてはしたない恰好。いくらラドゥ様に取り入りたいからってそんな下品な真似するなんて私ならできないわ」
 急に聞こえてきた小鳥のような高く耳に着く声に扉の方を見ればキアナが唇に人差し指を当てて私を見ていた。
「レオン様ったら、急に走り出すからびっくりしましたわ。真っ最中でしたのに、こんな熱々のふたりを邪魔しに来ていただなんて」
「良い所へ来たな。勘違いした邪魔が入って迷惑していたんだ。レオを連れて行け」
 ラドゥは嬉しそうにそう言うと立ち上がってレオを見た。
 レオのほうが背が高いため少し見上げるようになっている。
「今のリアの言葉を聞いただろ。こいつはお前が思っているような可憐な女じゃない。男を誘惑するような厭らしい女なんだよ。はははっ」
 辱められる言葉に私は耐えるべく歯を食いしばり、目を閉じる。
 我慢しなくては……フローラさんがどうなるか分からない。
 でも、そのことでレオを傷つけるだなんて……もう胸が張り裂けてしまえばいいと思うほど痛む。
「リア、嘘だろ。脅されていると言ってくれ。俺が、俺がどうにかするから。信じてくれ」
 ごめん、ごめん、ごめん。何度も心の中で呟く。
 でも、私が口にする言葉はそれとは違った。
「何のこと? 勘違いもいい加減にして」
「さっきの……キスはなんだったんだ。泣いていたのは?」
 レオの震える声に私ははっとして目を上げた。
 目に映るレオはいつもの冷静で全てを備えた完璧な元王子ではなかった。
 揺れる瞳と、震える口元。瞬きが繰り返され、縋るように私を見つめ続けている。
「……」
 大切な人のそんな顔を見て耐えれるはずがない。私は口を開こうとした。
「演技、ですわよね。レオン様ったらそんなに純粋だからリア様に騙されても気付かないんですわ」
 胸に針を突き刺されたような痛みが私を襲った。
「そうだぞ。おい、リア来い」
 私が動かないでいるとラドゥが妖しい目で来るようにと伝えてきた。
 のろのろとラドゥの元へ行く。レオの前を通り過ぎるとき、レオの視線を痛いほど感じた。
「キスしろ」
「え」

ストーリーメニュー

TOPTOPへ