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異種間恋愛

第19章 初めての恋

「我儘王子の風邪が治ったらね」
「馬鹿か」
 なにについて馬鹿と言われたのかははっきりしないが、たぶん全てにおいて馬鹿だということだ。
 否定はできない。
「いいから、黙って寝なさい」
「ふん」


「おかしいなあ……。ちゃんと薬は飲んだのに」
 ラドゥが規則正しい寝息を立て始めてからもその体温は下がることがない。
 むしろどんどん上昇していっている気さえする。
 冷たい私の指先がラドゥの額に触れると驚くほどの熱さを感じる。
 それと共にじょじょにラドゥの息遣いが苦しさを増したようになってきた。
 これは、本当に大丈夫じゃないかもしれない。助けを呼びに行かなくちゃ……。
 私は部屋の扉のほうへ足早に近づき、ノブに手をかけた。ゆっくり回してみるとそれは素直に回転した。
 内鍵はついてない。
 いつでも出れる……。
 ラドゥを振り返る。
 白い肌を熱で真っ赤にし、荒い息を繰り返している。
「ちょっと、待ってて。すぐに戻ってくるから」
 そう言うと音をなるべく立てないように部屋を出た。
 3日ぶりの外、といっても廊下だがそれでも新鮮だ。
 でも、そんなことを気にする余裕もなく私は走った。
 医務室は確か一階の隅にあった。
「リアっ」
 階段を駆け下りていると後ろからストラスの声がした。
「ストラ! 大変なのっ」
 ストラスは怪訝そうな顔をしてから私のほうへ駆け足で来て、まじまじと私の顔を見た。
「ひとりで裏にある建物を調べに行ったんだよね? あれから、ラドゥ様は外交で忙しくてお話する暇もないし、君は部屋に監禁されているし僕がどれだけ心配したか……」
「私は大丈夫。そんなことより、ラドゥの熱がすごいのよ。全然下がらないの!」
 あの日からはなにもされていない。指一本触れられていなかった。ただ、あの日のことをストラスに話せばどうなるのか恐ろしくて喋ることができない。
「大丈夫って……。リア、ラドゥ様の身動きができない今のうちに逃げよう。これ以上リアを王子とはいえ他の男に傷つけられるのは許せない」
 そう言うが早いか、ストラスは私の身体をひょいと持ち上げた。
 いわゆるお姫様だっこだ。
「ストラ! 離して!」
「どうして?」
 ストラスは階段を慎重に、速く駆け下りる。
 ストラスの顔を見上げると長い睫がふわりと揺れているのが見えた。

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