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異種間恋愛

第19章 初めての恋

 睨んでいた視線を外し、顔を洗い始める。白い肌に水を豪快にかけ、石鹸で乱暴にこする。
 水で石鹸を流すと、真っ白なタオルで顔を拭く。そんな洗顔の仕方でよく美肌を保っていられるなあと呆れ、感心してしまう。
「お前に何ができる。俺の仕事をなんだと思っている」
「じゃ、じゃあ。ストラスは? それに……レオは?」
 ブラシに手を伸ばしていたラドゥの動きがぴたりと止まった。
「お前は何が目的だ?」
「目的って?」
「俺の体を気遣ってお前になんの利がある?」
 ……どうして?
 そんな悲しい考え方ができるの。
「損得だけで人は行動できるものじゃないわ。心配してしまうのは自然な私の感情。そこに利もなにもない」
 ラドゥは黙ったまま私の言葉を聞いて、じっとしていた。
「……今日だけだ」
「え?」
「ストラスを呼んでくる」

 呼ばれて部屋にやってきたストラスは神妙な面持ちで私とラドゥを交互に見た。
「体調がお悪いのですか?」
 ストラスが口を開いた。
 どうやら、私が昨晩ストラスと会ったことを隠そうとしているらしい。
 なるほど、私が部屋から出たと知ったらラドゥは怒るだろう。
「知っていたのだろう。薄ら覚えている。リアが部屋を出て行ったところをな。俺は……リアを追って床で倒れた。それなのに、今朝はちゃんとベッドで寝ていた。男手があったに違いない。レオはありえないとなるとお前だけだろう。後はあの新しい薬を見るからにトマスも来ていたのだろ」
 あの医師はトマスという名なのだろうか。
「さすがラドゥ王子。……申し訳御座いません」
 言い当てたことは寸分違わず当たっていた。
「いい。それで、頼みだが、今日の俺の公務を代わりに行ってくれないか」
 ラドゥはストラスに用紙を手渡した。
 裏からでも透けて見えるくらい表には真っ黒な文字がびっしり書きつづられている。
 ストラスの切れ長い灰色の瞳がその文字にざっと目を通し、驚きの表情でラドゥに目をやった。
「ラドゥ様……」
 何やらいいかけて口を開いたストラスを制するようにラドゥは自分の人差し指を自分の口元に立てた。

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