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異種間恋愛

第19章 初めての恋

「何も言うな。お前にしか頼めない。ストラスという名は隣国でも知れているしな。頼めるか?」
 ラドゥの聞き方はいつもの彼らしくない。
 相手に二つの選択肢があるような聞き方をすることは今までで初めてかもしれない。
「……御意」
「感謝する」
 ストラスは深く頭を下げた。
「ラドゥ様、今日は一日ゆっくりお休み下さい。リア、看病を頼んだよ」
「うん」
 柔らかく微笑むストラスの笑顔。
「この代わりと言ってはなんですが、ラドゥ様。僕からもお願いが」
 ストラスの表情が曇った。何を言う気だろう。
「なんだ。言ってみろ」
「リアをあまりいじめないで下さい。僕の大切な婚約者ですので」
「……ゴホっ!!」
 私は場にそぐわない言葉に思わず大きく息を吸い込み、そして豪快にむせてしまった。 
 ラドゥは顔を真っ赤にしながら滑稽にもがいている私を一瞥して、ストラスに首を傾けて見せた。
「黙っていたが、婚約の儀はなかったことにしてやった。王子の座は便利だ」
「……そんなにリアに執着される理由はなんですか?」
 面白がるラドゥに対してストラスは真剣そのものだ。
「面白いからだ。玩具に飽きるまでは使わせてもらう。大丈夫だ。執着などしていないから、もうじきに飽きてお前にでも誰にでも返す。特別な感情など持っていない」
「そう、ですか。そう願うことにします。では、失礼します」
 ストラスがヘラヘラと笑っているラドゥをなにか見極めるように目を細めて見てから部屋を出て行こうとした。
「ストラス。我儘王子のことは私に任せて、お仕事頑張ってきてね」
「ははっ。うん、分かったよ」
 ストラスが爽やかな笑顔を見せてくれた。笑顔が輝いていて眩しい。
「お前、表情が表にそのまま出るようになったな」
 ラドゥが呟いた。
 ストラスはその言葉に一礼して、部屋を出て行こうとした。
「ラドゥ様は、その逆になってしまわれたようですね」
 扉が閉まるとき、ストラスの小さな呟きが聞こえてきた。ストラスらしくないやや失礼な言葉に私は首を傾げた。
「……」
 ラドゥは息をとめて消えていくストラスの背中を見ていた。
 二人にしか分からないやりとりのようだ。
「ラドゥ、せっかくお休みになったんだから。ゆっくり寝てて。今、食べやすいもの作ってあげるから」

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