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異種間恋愛

第3章 不器用な優しさ

「……きゃっ! き、牙!?」
 肩甲骨の真ん中あたりにさっと撫でるようにあたったものは硬い滑らかな石のような感触をしていた。
 レオの大きな牙をさっき見たから余計に恐怖心が湧くかと思ったけれど、なぜか下腹部が切ないように締め付けられ心臓がさらにうるさく鳴りだした。
「じっとしていろ」
 耳元で聞える低音にさらに下腹部が疼いた。
 じっとしていると何度か牙が背中に当たる。どうやら紐を咥えるのに四苦八苦しているらしい。
 それもそうだ、あんな大きな牙で細い紐を咥えるのは難しいだろう。ライオンになったことがないから詳しくは分からないが。
 優しく牙を噛みあわせるのが大変なのか、レオの鼻息がどんどん荒くなってきて私の背中が湿ってきた。
 気持ち悪いはずなのに、これまた不思議なことに気持ちがいいと感じてしまう私は本当に病気なのかもしれない。

「……」

「あ、あの」
「……」
 レオからの反応はない。
「あのっ」
「なんだ?」
「先に舌で紐を掬ってから、牙で挟んでゆっくり引っ張ってくれればいいかも……」
 私はさっきから考えていたことを言うとレオは珍しく狼狽したような不思議な音を漏らしてから言った。
「ん、やってみる」
「お願いします……っ」
 今度は声を上げそうになるのをなんとか我慢した。
 レオの生温かく濡れた舌が背中をゆっくりと這い、紐を絡め取ろうとして何度か背中を軽く叩く。
 ネコ科の動物の舌はざらざらしていて痛いという。ライオンは大きな獲物の肉を食べる時に骨から肉を削ぎ落とす為に特にざらざらしてやすりのようになっていると村の学校で習ったことがあったがレオの舌は私のそれと変わらないように感じた。
「……」
 レオはすごく集中しているようだ。
 背中でするすると紐と紐がこすれる音がしてレオが私から離れた。
「できた」
「あっ、ありがとう」とお礼を言うと私は急いでワンピースがずり落ちないように胸元の布を握りしめた。
「じゃあ、向こうにいる」
 レオは私の胸元を一瞬見てからすぐに目を逸らし、去って行った。
 後ろ姿がすこし小さく、そして可愛く見えたのは気のせいだろうか。

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