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異種間恋愛

第7章 新たな旅

 旅に出てから5度目の朝、目を覚ませば太陽の姿は見当たらず、その代わりに分厚い雲と大きな滴が木の葉を打ちつける音が辺り一面に響いていた。
 私はまだ動かないでいるジャスミンをそっと抱きしめたまま、レオが昨日作ってくれたベッドを木の方に寄せた。服も体も全く濡れていないのは大きく枝を広げ、葉を沢山生やしているこの木のおかげだ。
 そっと幹に触れると皮が湿っていた。耳を寄せれば水の音が心地よく聞えてきた。
 生きている……。当り前のことだけど、そんなことで胸が温かくなった。
「雨か」
 レオも目を覚ましたのか、前足を前方にぐいっと伸ばし、お尻を高くあげて伸びをしている。こういうところを見るとレオも一応ネコ科なのだと気づかされる。
「雨ね」
「濡れてないか?」
「うん。この木のおかげね」
 太い幹に手を添えたままゆっくりと表面を撫で、「ありがとう」と小さく呟いてからそっと頭を垂れて木に預けた。
 頭を上げればざわめく葉が雨を喜んでいるように思えた。
 レオは不思議な物でも見るように木を撫でている私の手をじっと見てから言った。
「今日はここで雨が止むまで休むぞ」
「そうね……」
 ラーナの様子を一刻も早くこの目で確認したい気持ちはあるけれど、この激しい雨の中森を歩くのは危険だ。森に少しは慣れてきた私は自然というものの有り難さと同時に恐怖もしっかりレオから学んでいた。
「そんな顔するな。ラーナは逃げないから大丈夫だ。それより、腹減ってないか?」
 確かにラーナは逃げない。
「ううん。大丈夫」
 こんな雨の中、朝食を確保するのは大変だろう。レオの美しい毛を雨で濡らしたくはない。
 私の意に反してレオは黙って立ち上がると木から離れていこうとする。
「レオ!」
「なんだ」
「どこ行くのよ」
「腹減ってるんだろ。お前の大丈夫は大丈夫じゃないからな」
「だからって、こんな土砂降りの雨なのに濡れに行かないでよ。それに、本当に大丈夫なの」
 私がレオを止めようと急いで立ち上がれば、膝で丸まって寝ていたジャスミンが驚いて飛び起きた。
 一瞬で状況を理解したようにジャスミンはしなやかな動きでしっぽを揺らしながら木の外へ走って行く。
「ジャスミン!」
「おいっ」
 私は雨に濡れるのも構わずジャスミンを追いかけると逃げられないように地面に伏せるようにジャスミンに覆いかぶさった。

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