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異種間恋愛

第10章 昔話と現在

 それだけでは終わらなかったのだ。王の権力を示すには『見せしめ』が必要だった。
 調度良い獲物が向こうからやってきたわけだ。
 王は高笑いしながら、娘を火炙りの刑に処した。
 民はその様子を無理矢理見せられた。処刑場に来ぬ者がいればその家族もろとも同じ刑に処すると脅したんじゃ。
 わしはその頃6つほどだったと思う。それでも鮮明に覚えておる……いや、若者と娘には悪いが、忘れようとしたこともあった。
 だが、どうしても忘れることなどできなんだ。瞼の裏に焼きついて消えんのだよ。
 若い娘が木に縛られ、足元からじわじわ焼かれていく光景を……。もがき苦しみ絶叫し続ける娘を。
 忘れられるはずがないじゃろ。
 だが、それよりも忘れられないものがあった。
 最後、叫ぶのも疲れたように息もできなくなったんじゃろ、そんな時に婚約者の若者に向かって言ったんじゃよ。

――あいしてる。

 民衆があまりにも静かだったおかげで娘の囁くような声も響いた。
 その時の娘の顔は穏やかで、楽園にでもいるかのように美しかった。あれが女神なのだと幼いわしは思った。あの言葉、声は忘れられない。
 その光景を見ていた誰もが顔を真っ青にし、涙を堪えて息を呑んだ。
 それが気に入らなかったのかファビオは若者を城の牢に閉じ込めた。
 ただ生かされて、時折ファビオが牢の前で娘が城の中で何をされておったのか詳しく語ったとか聞いたことはある。ファビオのことだ。たぶん事実だろう。
 その度に城の外にまで聞える声で若者は泣き叫び、絶叫した。

 そんなことがあってから、王国に逆らおうとする者はひとりもいなくなったんじゃよ。
 だから、リアさん。決してなにかを変えようとは思ってはいけない。変えることなど不可能なんじゃよ。
 リアさんのその顔は昔、抗議をしに行く前の若者にそっくりじゃ。 
 あえて、何をしにここへ来たかは聞かない。でも、城へは絶対に近付いてはいけないよ」

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