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異種間恋愛

第10章 昔話と現在

 話を聞き終わった私はもう泣くことも忘れて、ただ息をすることだけで精一杯だった。
「リアちゃん、これが現実なのよ」
 フローラさんの頬には涙の跡が光っている。
「フローラさん……」
「実は私の恋人も先月、城へ行ったの。彼はすごく手先が器用でね、この店の表に時計屋があるでしょう。そこの息子なのよ。彼の作る時計はとても正確でデザインも美しいって評判だったの……その評判を聞きつけたんでしょうね。王様から直々に城への招待状が届いたのよ。誇らしいわ」
「……そんな!」
 フローラさんは震える声で誇らしいと胸を張って見せた。私は唇を強く噛みしめた。鉄の味が口内をじんわりと侵す。
 明るく快活なフローラさんがそんな辛い目に遭っているなんてちっとも気付かなかった。
 私は自分よりも背の高いフローラさんをぎゅうっと抱きしめた。
 なんて細い……こんな身体で恋人を失った悲しみも、それを隠し店を切り盛りする強さも持っているなんて信じられなかった。
 フローラさんは私の肩に顔をうずめて静かに泣いていた。

「フローラ、じゃあリアさんをラーナ観光にでも連れて行ってあげなさい。リアさん、王国は女性は連れていかないんじゃよ。だから、安心してフローラと行っておいで。皆、心は寂しくても優しい人ばかりだから」
「貴重なお話、ありがとうございました」
「老いぼれが役に立ってよかったよ。でも、この話はもうしてはいけない。約束できるかね?」
「はい」
 おじいさんは優しい笑顔を残して店の方に戻って行った。
 フローラさんはゆっくり顔をあげると私を一度ぎゅうっと抱きしめてから離れた。
「ありがとう」
「いえ、そんな……。もう大丈夫ですか?」
 大丈夫なはずなんてないじゃないか。恋人がどんな目に遭っているのか想像するだけで心が裂けて壊れてしまいそうになるはずなのに。
 フローラさんは涙の証拠を隠滅するようにごしごしと顔をこすった。
 そして、さっきの元気なお姉さんの顔に戻っていた。
「大丈夫よ。よしっ! 観光案内なら任せて。行くわよーっ」
「わっ! ちょっと、待ってくださいー」

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