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異種間恋愛

第10章 昔話と現在

 フローラさんは外に出るなり、いきなり大きな声で私を指差し、店の宣伝をし始めた。
 女性にしては低くハスキーなその声と元気の良さに道行く人々がこちらを見る。すごく恥ずかしい……。
「まあ、可愛らしいお洋服」
「お店には色々な物を揃えてますので、どうぞお立ち寄り下さいー」
「行こうかしら」
「そうね、見てみましょう」
 フローラさんの呼びこみは驚くくらい上手くいった。
 店が女の子たちでいっぱいになったふこでフローラさんは満足したのか、私の手を握って歩き出した。
「リアちゃん効果抜群ね。店は大繁盛よ。お祝に美味しい物でも食べましょーね」
 女は強いとよく言うけれど、フローラさんを見ていると本当なんだと実感してしまう。
 突然、私のお腹が悲鳴をあげた。
「あ、お腹減ってたの忘れてました」
「え? あはははっ! 本当にリアちゃんって可愛いんだから」
 笑いながら歩くフローラさんについて行ってる間、通り過ぎる人々を観察してみる。
 どこか目的地があるのか、足早に通り過ぎる人。店をゆっくり見ながら道を楽しんで歩く人。手を繋ぎながら歩く微笑ましい親子。客引きをする人はとても元気で道行く人も笑いながら店員さんたちに話しかけている。
 こんなに幸せそうなのに……。
「リアちゃん、お肉は好き?」
「お肉……」
 何故か急にレオの姿が浮かんできた。
「ここのマトンすごく美味しいの」
 羊の肉は村にいる時からよく食べていた。フローラさんがすごく活き活きした顔をするから私は頷いていた。
 しかし、実際に運ばれてきた柔らかそうな肉の塊を目にすると心が痛んだ。
「レオ」
「え?」
 無意識にレオの名前を口にしてしまっていて自分でも驚いた。でも、それ以上にフローラさんは反応した。
「誰それ?もしかして……」
「ちっ、違います! ほら、食べましょう。美味しそうっ」
 私は胸の前で手を合わせて目を閉じた。心の中で『ありがとう』と呟く。

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