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異種間恋愛

第10章 昔話と現在

「なあに、それ? 珍しいポーズね」
「ご飯を食べる前にはこうやって生き物に感謝するんです」
「それがこういうポーズなわけ?」
 フローラさんは私の真似をした。
「うーん。私にとって感謝の意を示す姿勢なだけで、人それぞれ感謝する気持ちが込められるならどんなポーズでもいいと思います」
 これは森で暮らしている間に私が自然とし出した習慣のひとつだった。
 レオはいつも私のその様子をじっと眺めていた。ジャスミンは小さい手で私の真似をしているようだった。
「ねえ、ずっと気になってたんだけど。そのリスはペット? リスを飼ってる人なんて見たことないけど……」
 私の肩に乗っていたジャスミンは今は服の中にはいり、頭だけを時折外にだしてきょろきょろした後すぐにまた中へ引っ込んだりしていた。
「ペットじゃなくて、友だちです」
 呼ばれたことに気がついたのかジャスミンがそっと私の胸元から顔を出した。頭を人差し指で撫でてやる。
 フローラさんは驚いた顔をしながら肉の塊を口に放り込んだ。
 私もそれに続く。
「ふわっ。おいひーっ」
 口の中で肉汁がじわっと溢れ出し、レアだった肉の歯ごたえと風味がたまらない。
「でしょー。どんどん食べて」
 木の実と魚以外の食べ物は本当に久しぶりで、血が体中に巡る感じがした。
 なんでもできそうだ。
 料理をぺろっと平らげた私たちはまた観光をしていた。
「ねえ、さっきリアちゃんが言ってた名前は恋人?」
 フローラさんが興味津津な笑顔で聞いてくる。恋人、という言葉が彼女にとって辛くないのが不思議だった。無理をしているのだろう。
「だから、違うんです」
「じゃあ、誰?」
 ほっぺをふにふにと突いてくる。
 誰と聞かれてもなんと言っていいのか分からない。
 友だち? なんか違う。先生? 確かに色々なことを教えてくれる。でも違う。
「ど、同居人みたいな」
「えっ! 恋人でもないのに同居してるの? お母さん、そんなこと絶対許しませんからね!」
 いつからお母さんになったのだろう。

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