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喪失、そして再生~どこか遠くへ~My Godness完結編

第1章 ♣ここではないどこかへ♣

 それでも、宿泊賃がただにして貰えるのは何より、ありがたい。銀行に預けてある分は別として、それほど多く持ち合わせがあるわけではなかった。実里が子どもを生んでからというもの、たとえ父子の名乗りはできなくても、子どもに恥じない生き方をしたい。そう思って、ホスト稼業とはきっぱり決別した。
 そこまでは良かったが、高校中退で更に五年もの間、水商売をしていた男にろくな就職先があるはずもなかった。結局はコンビニ、ガソリンスタンドと以前のようにバイトを掛け持ちするだけで、日は過ぎていった。
 ネットで求人を調べ、これはと思う仕事を見つけて問い合わせてみると、初対面では大抵の人間は好印象を持ってくれる。しかし、いざ正式な履歴書を出す段となると、相手側の態度が硬化した。
 一度などは、面と向かって言われた。
―うちの会社は信用を第一にしているんだよ。高校中退はまだ眼を瞑れるとしても、幾ら何でも、君ねえ、ホストなんかしてた人に任せられるわけないでしょ。建設会社の営業は君、ちゃらちゃらして女の気を惹くのとは訳が違うんだよ? それなりの専門知識も必要だしね。大体、あんた、ちゃんと働くって、どんなものか判ってるのかい?
 どこに行っても、その繰り返し、求人側の対応も似たり寄ったりだった。
 しまいには悠理自身も職探しをするのに嫌気がさして、やる気も失せてしまったというのが実情だったのだ。
 そんな有様で、纏まった金が手許にあるはずもない。だから、網元の仕事を手伝う代わりに、住み込みで働かせて貰えるというのは正直、助かる。
 悠理はふと思いついて、起き上がった。部屋の片隅に置いてある唯一の家具らしいカラーボックスを振り返る。それは三段で、優しいクリームイエローだ。長い年月であちこち塗装が剝げているが、どこかが壊れているというようなことはない。悠理は背負ってきたナップサックを無造作に放り込んでおいたのだ。
 ナップサックを引っ張り出す時、カラーボックスの上に置かれているガラスの一輪挿しがふと視界に入った。

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