喪失、そして再生~どこか遠くへ~My Godness完結編
第1章 ♣ここではないどこかへ♣
「浜木綿(はまゆう)?」
呟き、意外なものに気づいたとでもいうように眼を見開く。どう見ても百円ショップの一輪挿しにしか見えないけれど、活けられた浜ゆうは純白で美しく、殺風景になりがちな空間を和ませるのにひと役買っている。
網元の家は浜辺からもほど近いし、浜ゆうは海辺に自生するとも聞くから、誰かが摘んできて活けたのだろうか。それとも庭にでも植わっているのか。
いずれにせよ、この家の人が活けたものには相違ない。だが、あの無骨な網元が浜ゆうを摘んで活けたとは到底考えられなかった。
そういえば、と、悠理は首を傾げた。
網元は自分の名前を名乗っただけで、他のことは何も触れなかった。あの歳であれば常識的に考えれば、家族がいて当然なのだ。奥さんや子どももいるはずなのに、そういった話―ごくプライベートな話は何も聞かされてはいなかった。
自分が特に詮索好きだとは思わないが、やはり、これからしばらくここに居候して働くからには、同じ屋根の下に住む人たちが誰であるかくらいは知っておきたい。明日の朝、網元に直接訊いてみようと、悠理は一旦、その考えを頭から追い出した。
緑色のナップサックはディスカウントストアの千円均一セールで買ったもので、まだ早妃が元気だった頃から使っている。我ながら随分と物持ちの良いものだと呆れるくらい愛用している。
ホスト時代、仲間たちはこぞってブランド物を身につけていた。悠理もまた店に出て客の相手をするときは、それなりに持ち物にも気を遣ようには心がけてはいたものの、他のホストたちのようにブランド物でこれでもかというように身を飾り立てるのは性に合わなかった。
また馴染客からブランド物の時計やハンカチ、スカーフ、ブレスレットなどを贈られることもある。そういう場合は特に気を遣い、その客に対応する際は必ず身につけるようにしていた。が、基本的にブランド物には興味もなく、ましてや好きでもない悠理は家に帰れば、そんな煩わしいものは一切外していた。
呟き、意外なものに気づいたとでもいうように眼を見開く。どう見ても百円ショップの一輪挿しにしか見えないけれど、活けられた浜ゆうは純白で美しく、殺風景になりがちな空間を和ませるのにひと役買っている。
網元の家は浜辺からもほど近いし、浜ゆうは海辺に自生するとも聞くから、誰かが摘んできて活けたのだろうか。それとも庭にでも植わっているのか。
いずれにせよ、この家の人が活けたものには相違ない。だが、あの無骨な網元が浜ゆうを摘んで活けたとは到底考えられなかった。
そういえば、と、悠理は首を傾げた。
網元は自分の名前を名乗っただけで、他のことは何も触れなかった。あの歳であれば常識的に考えれば、家族がいて当然なのだ。奥さんや子どももいるはずなのに、そういった話―ごくプライベートな話は何も聞かされてはいなかった。
自分が特に詮索好きだとは思わないが、やはり、これからしばらくここに居候して働くからには、同じ屋根の下に住む人たちが誰であるかくらいは知っておきたい。明日の朝、網元に直接訊いてみようと、悠理は一旦、その考えを頭から追い出した。
緑色のナップサックはディスカウントストアの千円均一セールで買ったもので、まだ早妃が元気だった頃から使っている。我ながら随分と物持ちの良いものだと呆れるくらい愛用している。
ホスト時代、仲間たちはこぞってブランド物を身につけていた。悠理もまた店に出て客の相手をするときは、それなりに持ち物にも気を遣ようには心がけてはいたものの、他のホストたちのようにブランド物でこれでもかというように身を飾り立てるのは性に合わなかった。
また馴染客からブランド物の時計やハンカチ、スカーフ、ブレスレットなどを贈られることもある。そういう場合は特に気を遣い、その客に対応する際は必ず身につけるようにしていた。が、基本的にブランド物には興味もなく、ましてや好きでもない悠理は家に帰れば、そんな煩わしいものは一切外していた。