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喪失、そして再生~どこか遠くへ~My Godness完結編

第1章 ♣ここではないどこかへ♣

 その後、二度と眠りは訪れず、苛立った悠理はアルコールを浴びるように流し込んだ。喪失感と哀しみと絶望がないまぜになって、気が狂いそうになった。
 いっそのこと気が本当に狂ってしまえば、楽になる。そう考えて、仲間たちがたまにやっているドラッグをやろうかと思ったことさえあったのだ。
 それでも、どうにかドラッグに手を出さずに済んだのは、皮肉にも早妃を轢き殺した実里に何が何でも復讐してやろうという暗い一念によるものだった。
 その夜、悠理は久しぶりにあの哀しい夢を見た。夢の中で悠理はやはり泣いていた。
 目覚めた時、既に狭い室内には朝の眩しい陽射しが差し込んでいた。早妃の形見の十字架を握りしめて眠っていたようだ。ポストカードは枕元に転がっていた。
 悠理は布団に身を起こし、茫然と宙を見据えた。そっと頬に触れると、やはり湿った感触がある。そこで初めて、ああ、自分は泣いていたのだなと思った。
 それにしても、昨夜の夢は今までとは違っていた。夢の終わりに、悠理は確かに早妃の姿を眼にしたと思う。しかし、自分が目覚める間際に見たのは、早妃の顔でもあったようだし、実里であったような気もした。
 しかも、女は赤児を腕に抱いていた。考えてみれば、早妃も実里も悠理の子を宿したのだから、どちらが赤ん坊を抱いていたとしても不思議はない。
 目覚める瞬間、確かに女の名前を呼んだのに、それが誰の名を呼んだのかも憶えていないのだ。

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