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喪失、そして再生~どこか遠くへ~My Godness完結編

第2章 ♣海の女神♣

 海風に混じったその花の香りは、なかなか消えなかった。潮気の強い風に混じっても、少しも損なわれることなく、むしろより際立って香る―妖しい香りである。まさに、海で生まれた女神が身に纏うにふわさしい。
 悠理はいつしか惚けたようにその場に立ち尽くしていた。
 再び現実に立ち帰った時、悠理は己れの愚かさを呪った。
 俺は何を考えてるんだ?
 確かに少しは綺麗かもしれないが、所詮は田舎娘ではないか。あの程度の女なら、これまで数え切れないくらい見てきたはずなのに、何故か、あの女のことが無性に気になってならない。それに、あの香り。
 脳髄を痺れさせるような蠱惑的でいて、それでいながら、清潔感をも失わない。あたかも、今、彼の側を通り過ぎていったばかりの女のようだ。清楚さと成熟した女の妖艶さを同居させて、不自然どころか、ごく自然な美しさを醸し出している。
 悠理も二十三歳の健康な男である。性的な欲求は人並みにある。ホスト時代に金と引きかえで客と関係を持ったのを最後に、それからは一切、女を抱いていない。風俗に行けるくらいの持ち合わせはあるにはあったけれど、心の通わないセックスをしても空しいだけに思えた。
 自分がかつてそうだったから、悠理には判るのだ。風俗嬢が客と寝るのは、あくまでも金のため。彼女たちにとっては、それが仕事だからだ。ホストが女性客とホテルに行くのも金儲けのためだ。仕事と割り切っているから、どんなご免蒙りたいような女でも眼を瞑って身体を重ねた。
 そんな関係は所詮、肉体の一時的な欲求を満たすだけにすぎない。いや、心の伴わないセックスであれば、もしかしたら、身体だけさえも満たされないのかもしれない。―などと言えば、かつてのホスト仲間は腹を抱えて大笑いするに違いない。
―お前、その若さでもう使えなくなっちまったのか?
 と。確かに、そう揶揄されても仕方ないほど、悠理は金のためなら何でもした。早妃と正式に籍を入れてからは流石に止めたが、彼女を失い、実里をレイプという形で抱いたのを境に、再び請われれば客と寝るようになった。

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