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喪失、そして再生~どこか遠くへ~My Godness完結編

第2章 ♣海の女神♣

 あの頃は実里の豊かな肢体を思い描きながら、自分よりはるかに年上の女たちを抱いたものだ。思えば、あれは実里に予期せず惚れてしまった自分の荒れる心をごまかすための手段に違いなかった。
 関係を持ったにも拘わらず、顔も名前も思い出せない女がごまんといる。それほど放埒な荒んだ日々を送っていたのだともいえた。
 だから、今になって欲求不満が高じたとでも? 
 悠理は半ば自棄のような気持ちになり、心の中で悪態をついた。
 冗談ではない。金のためには大勢の客と寝たが、やっと見つけた仕事先で雇い主の娘に初対面で欲情するほどの鬼畜ではないつもりだ。
 だとすれば、何で、あの女のことがこんなにも気になる? 悠理は自問自答する。
 刹那、先刻見たあの瞳が甦った。
 黒い、幾つもの夜を集めたような漆黒の瞳。少しだけ潤んだ瞳はどこまでも深くて、まるでじっと見つめ続ければ、奥底に魂まで絡め取られそうだ。あんな不思議な魔力を秘めた双眸を持つ女を悠理は少なくとも二人は知っている。
 一人はとうにこの世を去り、死別という形で失い、今ひとりは生きてはいるが、けして添えず結ばれぬさだめの女である。
 そうだ、あの女は早妃と実里に似ているのだ! 悠理の心を烈しい衝撃が駆け抜けた。
 容貌の問題ではない。―確かに、女の楚々とした風情は早妃にどこか似通っていないこともないけれど、それほど似ているというわけではなかった。ましてや、似ていると感じた実里は容貌だけでいえば、早妃とは似ていなかった。儚げな顔立ちの早妃に比べ、実里は今風の華やかで愛らしい顔立ちをしていた。
 それでも、悠理は早妃と実里が似ていると思ったのだ。そう、容貌などではなく、魂の奥深い部分に、あの二人には共通しているものがあった。優しさとか、折れそうに脆く見えるのに、存外にしなやかな強さを持っているとか、何があっても、凜として人生に立ち向かおうとする一途さ。
 ちょうど、悠理の部屋で見た、誰が活けたとも知れぬ純白の花のように、たおやかでいながら凜として前を向いている。そんな佇まいが二人の―いや三人の女たちにはあった。
 俺は、一体―。
 悠理は唇を噛みしめて、前を睨み据えた。

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