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喪失、そして再生~どこか遠くへ~My Godness完結編

第2章 ♣海の女神♣

 馬鹿な考えは棄てろと自分に言い聞かせる。たとえ、網元の娘が早妃や実里に似ているとしても、愚かな自分がひとめ惚れしたのだとしても、この想いを表に出すわけにはゆかなかった。
 生まれ故郷を逃げるようにして出てきて、偶然立ち寄った町で、やっと見つけた仕事なのだ。運命の神さまは意地悪なものだ。仕事だけでなく、久方ぶりに訪れた恋までをも同時に与えてくれるとは。
 だが、その偶然に訪れた恋がこの場合、けして自分に良い結果をもたらすとは思えない。第一、相手の女は自分が声をかけただけで、あんなにも警戒心を漲らせていたではないか。
 女の中には動物的に鋭い勘を持っている者がいる。女に害をなすような男―遊び人、不実な人間などは嗅覚というか本能で嗅ぎ分けられるのだ。恐らく、あの女はそういった女特有の勘で、悠理が信用するに値しない男だと瞬時に感じ取ったのだろう。
 これ以上、あの女には拘わらない方が良い。それが自分だけでなく、あの女にとっても無難なはずだ。これまで悠理に拘わった女たち―早妃も実里も不幸になった。自分自身が不幸の星を背負っているから、拘わり合った女たちまでをもその不幸に巻き込んでしまうのではないか。
 自分は五歳で母親に棄てられ、十七歳で父親を失ってから、水商売に入った。最初のバーテン仕事は長くは続かず、直にホストクラブに在籍するようになった。そんな中でめぐり逢った早妃とやっとささやかな幸福を得たと思ったけれど、あの事故で早妃とそのお腹の我が子までをも失った。
 復讐として実里をレイプした結果、彼女は妊娠。子どもは無事に生まれたものの、悠理は図らずも愛してしまった実里と結ばれることもできず、我が子に父と呼ばれることもない。
 二十三年というけして長すぎはしない生涯は、けして幸福とはいえなかった。だから、自分はきっと、どうしようもない不幸の星の下に生まれてしまったのだ―と、いつしか悠理は果てのない諦めを心の中に抱えるようになった。

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