喪失、そして再生~どこか遠くへ~My Godness完結編
第2章 ♣海の女神♣
同じ日の夜になった。
夕飯の後、悠理は網元に呼ばれ、階下に降りていった。この家では、夕食は厨房からは廊下を挟んで向かい合う居間で食べる。夕食を運んできたのは、やはり、あの女―早妃と実里に似ていると思った女性であった。
服装は朝、見かけたときと変わらない。その上に白と赤のギンガムチェック模様のエプロンをつけていた。
女は盆に乗せた料理を運んできた。身体を動かすことが苦にならない性分のなのか、厨房と居間を何往復しても嫌な顔一つ見せなかった。その何度目かに、網元から紹介を受けた。
「娘の眞矢歌(まやか)だ」
女は白い面に曖昧な微笑を湛え、悠理に向かって頭を下げた。その整った顔に、特に何の感情も浮かんではおらず、悠理は何故か、その事実に酷く落胆した。更に、自分がそこまでの衝撃を受けたことが余計に彼の心を重く沈ませた。
夕食の食卓には、だし巻き卵、ゴーヤチャンプル、キュウリの酢の物、味噌汁が並んだ。日本の味を彷彿とさせる―などと真面目な顔で言えば、それこそまたホスト時代の悠理をよく知る連中は大笑いするに違いない。
―お前、どこか頭でも打ったんじゃねえの。
と。
しかし、眞矢歌の作る料理は確かに昔懐かしい―日本の原点を思い出させるような味がした。悠理のように幼い頃に母に生き別れ、母の味など一切知らずに育った男にもそれを彷彿とさせるような素朴さとでも言い換えれば良いのか。
どれも手がかけられていて、作った人の真心がこもっていると感じられる料理ばかりであった。その昔懐かしい素朴な味は、眞矢歌という女その人の雰囲気にもよく合っている。
夕食時はむろん、眞矢歌も居間で一緒に食べた。畳敷の部屋に丸いちゃぶ台があり、それを三人で囲んで食べるのだ。眞矢歌も網元も余計な話は一切せず、ただ黙々と箸を動かすだけで、悠理は何とはなしに居心地の悪さのようなものを感じないわけにはゆかなかった。
夕飯の後、悠理は網元に呼ばれ、階下に降りていった。この家では、夕食は厨房からは廊下を挟んで向かい合う居間で食べる。夕食を運んできたのは、やはり、あの女―早妃と実里に似ていると思った女性であった。
服装は朝、見かけたときと変わらない。その上に白と赤のギンガムチェック模様のエプロンをつけていた。
女は盆に乗せた料理を運んできた。身体を動かすことが苦にならない性分のなのか、厨房と居間を何往復しても嫌な顔一つ見せなかった。その何度目かに、網元から紹介を受けた。
「娘の眞矢歌(まやか)だ」
女は白い面に曖昧な微笑を湛え、悠理に向かって頭を下げた。その整った顔に、特に何の感情も浮かんではおらず、悠理は何故か、その事実に酷く落胆した。更に、自分がそこまでの衝撃を受けたことが余計に彼の心を重く沈ませた。
夕食の食卓には、だし巻き卵、ゴーヤチャンプル、キュウリの酢の物、味噌汁が並んだ。日本の味を彷彿とさせる―などと真面目な顔で言えば、それこそまたホスト時代の悠理をよく知る連中は大笑いするに違いない。
―お前、どこか頭でも打ったんじゃねえの。
と。
しかし、眞矢歌の作る料理は確かに昔懐かしい―日本の原点を思い出させるような味がした。悠理のように幼い頃に母に生き別れ、母の味など一切知らずに育った男にもそれを彷彿とさせるような素朴さとでも言い換えれば良いのか。
どれも手がかけられていて、作った人の真心がこもっていると感じられる料理ばかりであった。その昔懐かしい素朴な味は、眞矢歌という女その人の雰囲気にもよく合っている。
夕食時はむろん、眞矢歌も居間で一緒に食べた。畳敷の部屋に丸いちゃぶ台があり、それを三人で囲んで食べるのだ。眞矢歌も網元も余計な話は一切せず、ただ黙々と箸を動かすだけで、悠理は何とはなしに居心地の悪さのようなものを感じないわけにはゆかなかった。