喪失、そして再生~どこか遠くへ~My Godness完結編
第2章 ♣海の女神♣
網元が喋ったのは後にも先にも〝飯〟と〝お茶をくれ〟のふた言だけだったのだ。眞矢歌に至っては、ひと言も喋らずじまいであった。いつもこの家の食事風景はこんな風に静まり返っているのか、赤の他人が急に割り込んできたからなのかは判らない。
眞矢歌はささっと食事を終えると、席を立った。後は戻ってこず、厨房で後片付けを始めたようである。悠理は自分と網元の食べ終えた食器を厨房まで運んでいった。
「あの―」
いきなり声をかけられたせいか、眞矢歌のか細い背中がビクンと震えた。
どうやら、彼女は手を泡だらけにして食器を洗っている最中のようである。
「あ、愕かせてしまって、ごめん」
謝ると、少しだけ強ばった声が聞こえた。
「何か?」
最初に逢ったときも〝何か?〟と訊かれたが、この女は同じ科白しか喋らないのかなどと、いささか意地悪な気持ちで考えてしまう。
「いや、片付け大変そうだから、良かったら、俺も手伝おうかなと思って」
「結構です。これくらい、いつも一人でやってることだから」
声自体は可愛らしいが、言うことは可愛くない。やはり、早妃や実里に似ていると思ったのは自分の気のせいだったのだろう。悠理がかつて愛した女たちは、こんな風にかわいげも愛想の欠片もない女ではなかった。
「判った。もし、手伝えることがあるなら、いつでも遠慮なく言って」
悠理はそれでも穏やかに言い、踵を返した。
あんな女が良いと思っただなんて、俺もついにヤキが回ったな。ちょっと見は美人で、楚々として守ってやりたくなるような感じだけど、中身はとんでもない高慢ちきな女じゃないか。
どうせ垢抜けない田舎娘のくせに、少しばかり綺麗なのを鼻に掛けやがって。
女っ気なしが長く続くと、頭までおかしくなるのだろうかなどと、至極真面目に考えたのだった。
眞矢歌はささっと食事を終えると、席を立った。後は戻ってこず、厨房で後片付けを始めたようである。悠理は自分と網元の食べ終えた食器を厨房まで運んでいった。
「あの―」
いきなり声をかけられたせいか、眞矢歌のか細い背中がビクンと震えた。
どうやら、彼女は手を泡だらけにして食器を洗っている最中のようである。
「あ、愕かせてしまって、ごめん」
謝ると、少しだけ強ばった声が聞こえた。
「何か?」
最初に逢ったときも〝何か?〟と訊かれたが、この女は同じ科白しか喋らないのかなどと、いささか意地悪な気持ちで考えてしまう。
「いや、片付け大変そうだから、良かったら、俺も手伝おうかなと思って」
「結構です。これくらい、いつも一人でやってることだから」
声自体は可愛らしいが、言うことは可愛くない。やはり、早妃や実里に似ていると思ったのは自分の気のせいだったのだろう。悠理がかつて愛した女たちは、こんな風にかわいげも愛想の欠片もない女ではなかった。
「判った。もし、手伝えることがあるなら、いつでも遠慮なく言って」
悠理はそれでも穏やかに言い、踵を返した。
あんな女が良いと思っただなんて、俺もついにヤキが回ったな。ちょっと見は美人で、楚々として守ってやりたくなるような感じだけど、中身はとんでもない高慢ちきな女じゃないか。
どうせ垢抜けない田舎娘のくせに、少しばかり綺麗なのを鼻に掛けやがって。
女っ気なしが長く続くと、頭までおかしくなるのだろうかなどと、至極真面目に考えたのだった。