喪失、そして再生~どこか遠くへ~My Godness完結編
第2章 ♣海の女神♣
夕飯の後、ひとたび自室に籠もっていた悠理は、網元に呼ばれて再び階下に降りてきた。
当然ながら、眞矢歌の姿はそこになく、悠理は当てが外れたような気がする。そしてまた、知らない中にあのいけ好かない女の姿を期待していた自分に腹が立った。
ちゃぶ台の前には網元が陣取り、一人、手酌で杯を傾けていた。
「お呼びですか?」
「まあ、座れ」
顎で促され、悠理は網元の向かいに膝を揃えて座った。
しばらく微妙な沈黙が二人の間を漂った。網元はその場に悠理がいることなど忘れ果てたかのように、黙々と一人で注いでは飲んでいる。
そこで、悠理はハッとした。
「お注ぎします」
ホスト時代は客がポケットから煙草を出すか出さない中に灰皿とライターを取り出したものだが、随分と勘も鈍ったものだ。
慌ててちゃぶ台から銚子を取り上げると、網元が苦笑いの顔を向けた。
「わしは手酌で飲むのが好きでな。酌をされると、かえって気兼ねで思うように飲めん」
「―済みません」
謝ると、網元はまた笑った。
「まずは合格だな」
突然の科白に、悠理は小首を傾げる。
「網を全部お前に干しておけと言ったが、正直なところ、どこまでやれるかと訝しんでいた。網一つ干すのなぞ簡単なことだと思っていると、とんだ泣きを見ることになる。敢えて何も教えずにやらせたが、お前はちゃんと昨日のほんのわずかな間で、わしのやっておったことを見て憶えていた。見かけによらず、几帳面なことも網の干し方一つで判る。あれだけの網を干すのに、どれだけかかった?」
「思ったよりも時間がかかりました」
頭をかきながら正直なところを述べる。
網元の将棋の駒を思わせるいかつい顔が綻んだ。
当然ながら、眞矢歌の姿はそこになく、悠理は当てが外れたような気がする。そしてまた、知らない中にあのいけ好かない女の姿を期待していた自分に腹が立った。
ちゃぶ台の前には網元が陣取り、一人、手酌で杯を傾けていた。
「お呼びですか?」
「まあ、座れ」
顎で促され、悠理は網元の向かいに膝を揃えて座った。
しばらく微妙な沈黙が二人の間を漂った。網元はその場に悠理がいることなど忘れ果てたかのように、黙々と一人で注いでは飲んでいる。
そこで、悠理はハッとした。
「お注ぎします」
ホスト時代は客がポケットから煙草を出すか出さない中に灰皿とライターを取り出したものだが、随分と勘も鈍ったものだ。
慌ててちゃぶ台から銚子を取り上げると、網元が苦笑いの顔を向けた。
「わしは手酌で飲むのが好きでな。酌をされると、かえって気兼ねで思うように飲めん」
「―済みません」
謝ると、網元はまた笑った。
「まずは合格だな」
突然の科白に、悠理は小首を傾げる。
「網を全部お前に干しておけと言ったが、正直なところ、どこまでやれるかと訝しんでいた。網一つ干すのなぞ簡単なことだと思っていると、とんだ泣きを見ることになる。敢えて何も教えずにやらせたが、お前はちゃんと昨日のほんのわずかな間で、わしのやっておったことを見て憶えていた。見かけによらず、几帳面なことも網の干し方一つで判る。あれだけの網を干すのに、どれだけかかった?」
「思ったよりも時間がかかりました」
頭をかきながら正直なところを述べる。
網元の将棋の駒を思わせるいかつい顔が綻んだ。