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喪失、そして再生~どこか遠くへ~My Godness完結編

第2章 ♣海の女神♣

「そうか。だが、慣れれば、もっと早くにできるようになる。良いか、よく憶えておけ。網は漁師が使う最も大切なものだ。それを疎かに扱うようなヤツでは、到底、漁師の荒仕事は務まらない。お前はきちんとした仕事をもできるし、見た目よりは根性もあるようだ。まずは基本を教えるから、やれるだけやってみるが良い」
「それって―、ここで働かせて貰えるっていうことですか!?」
 悠理は意気込んだ。
「まあ、そういうことだな」
 網元はまた自ら杯を満たし、クイっと煽る。
「あの、一つだけ訊いても良いですか? 親方」
 何だというように網元が顔を上げた。
「親方はさっきから、俺のことを見た目よりとか見かけによらずって言われましたけど、それはどういう意味でしょう?」
「深刻そうに訊ねるから、何事かと思えば、そんなことか」
 網元は笑いながら悠理を見る。
「お前は顔が良い。ここいらでは滅多に見かけることはないほどの上男だ。その面子では、さぞかし女を泣かせてきたんだろうくらいのことは、朴念仁のわしにも判る。悠理―とかいったな。悠理よ、人の生き方というのは自ずとその人間の雰囲気、印象となって相手に伝わるものだ。良い加減な生き方をすれば、それが見る人には判る。逆に、しっかりと芯のある生き方をしてくれば、対する相手に安心感や信頼といったものを感じさせる」
「つまり、それは、俺が見かけ倒しの良い加減な男にしか見えなかったということですよね?」
 網元はそれには口の端を歪めただけで、明確な返答はしなかった。
「それと、もう一つ言っておかなければならないことがある」
「何でしょう?」
「明日は禁漁日だ。だから、お前も一日、休みを取れば良い。自由に過ごして良いぞ。ただし、あさっての早朝にはまた漁に出る。そのつもりでいろ。今度また、今朝のようにすっぽかしたら、今度はその場で叩き出すからな」

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