
喪失、そして再生~どこか遠くへ~My Godness完結編
第1章 ♣ここではないどこかへ♣
砂埃を上げて走り去るバスは全体にオレンジ色で中央に蒼いラインが入っている。かなり年代物のようで、車体は所々、塗装が剝げかかっていた。
バスが完全に視界から消えるのを確認してから、悠理はナップサックを担いで歩き出す。
―何で、この町がこんなに気になるんだ?
悠理は周囲の風景を見回しながら、ゆっくりと歩く。その間にも、彼の脳裏を占めるのはたった一つの疑問だけだった。
自分の生まれ育ったF町からバスで数時間のところにあるこの小さな港町が何故、自分をこんなにも惹きつけるのか? 訪れたこともなく、名前すら滅多に聞いたことのない町なのに。
いやと、彼は小さく首を振る。俺は多分、ここに来たかったわけじゃない。俺はどこかに逃げ出したかったんだ。ここではないどこかから、俺を取り巻くすべてのものから離れたかっただけなんだろう。だから、生まれた町を棄てて、これまでの自分をすべて忘れるつもりで長い旅に出たのだ。
選んだ道を後悔するつもりはない。誰にとっても、こうするのがいちばん良かったのだ。我が子であっても、けして我が子とは呼べない子。恐らくこれからの生涯、その我が子をこの腕に抱くことも、その子が自分を父と呼ぶこともないだろう。
何故なら、彼は許されない罪を犯してしまったから。今でも彼は自分を理解できない。最愛の妻を失った哀しみのどん底にいたとはいえ、よくぞあそこまで酷いことができたものだ。自分より弱い女を押さえつけ、これ以上はないという残酷なやり方で辱め、抱いた。
今でも、のしかかったときに真上から見た女の泣き顔や怯えた瞳が瞼に灼きついて離れない。その一方、束の間、抱いた女の身体のやわらかさや普段の女の澄んだまなざしを懐かしいとすら思う。
そう、自分はいつしか彼女を愛していた。彼女を抱いたのは〝復讐〟という名の下であったことは確かだけれど、彼は女の優しい心やきちんとした人柄を知る中に、自分でも知らない中に惹かれていっていたのだ。
結局、復讐するつもりで近づいた女に惚れ、あまつさえ、レイプした女は彼の子どもを身籠もった。最も残酷な現実を突きつけられたのは、むしろ悠理自身であったろう。折角得た我が子は我が子と呼べず、抱くことすら許されない。
バスが完全に視界から消えるのを確認してから、悠理はナップサックを担いで歩き出す。
―何で、この町がこんなに気になるんだ?
悠理は周囲の風景を見回しながら、ゆっくりと歩く。その間にも、彼の脳裏を占めるのはたった一つの疑問だけだった。
自分の生まれ育ったF町からバスで数時間のところにあるこの小さな港町が何故、自分をこんなにも惹きつけるのか? 訪れたこともなく、名前すら滅多に聞いたことのない町なのに。
いやと、彼は小さく首を振る。俺は多分、ここに来たかったわけじゃない。俺はどこかに逃げ出したかったんだ。ここではないどこかから、俺を取り巻くすべてのものから離れたかっただけなんだろう。だから、生まれた町を棄てて、これまでの自分をすべて忘れるつもりで長い旅に出たのだ。
選んだ道を後悔するつもりはない。誰にとっても、こうするのがいちばん良かったのだ。我が子であっても、けして我が子とは呼べない子。恐らくこれからの生涯、その我が子をこの腕に抱くことも、その子が自分を父と呼ぶこともないだろう。
何故なら、彼は許されない罪を犯してしまったから。今でも彼は自分を理解できない。最愛の妻を失った哀しみのどん底にいたとはいえ、よくぞあそこまで酷いことができたものだ。自分より弱い女を押さえつけ、これ以上はないという残酷なやり方で辱め、抱いた。
今でも、のしかかったときに真上から見た女の泣き顔や怯えた瞳が瞼に灼きついて離れない。その一方、束の間、抱いた女の身体のやわらかさや普段の女の澄んだまなざしを懐かしいとすら思う。
そう、自分はいつしか彼女を愛していた。彼女を抱いたのは〝復讐〟という名の下であったことは確かだけれど、彼は女の優しい心やきちんとした人柄を知る中に、自分でも知らない中に惹かれていっていたのだ。
結局、復讐するつもりで近づいた女に惚れ、あまつさえ、レイプした女は彼の子どもを身籠もった。最も残酷な現実を突きつけられたのは、むしろ悠理自身であったろう。折角得た我が子は我が子と呼べず、抱くことすら許されない。
