喪失、そして再生~どこか遠くへ~My Godness完結編
第2章 ♣海の女神♣
何ということはない当たり前のことのようにも聞こえるけれど、言うほど容易いことではないのは判っている。力仕事をするのも働くのも嫌いではない。しかし、長年、水商売の世界でしか生きてこなかった男が二十三になって漁師の世界で生きていく―それがどれだけ困難なことかを考えてみないわけではなかった。
だが、不思議なことに、自分は叶うならば、この世界で生きてみたい、自分を試してみたいと思う気持ちがある。あの網元には不思議な魅力があった。この人になら、どこまでもついてゆきたいと素直に感じられるような。
今まで生きてきて、そんな風に思えたのは、自分の父親以外にはいない。父は一生涯、工事の現場監督で終わった。世間的には何の力も影響力も持たなかったけれど、悠理にとっては絶対的な力を及ぼす存在が父であった。
故郷から遠く離れたこの町で、そんな風に思える人にめぐり逢えたのも、奇しき縁と言わねばならない。
網元の下で漁師として一から学び、一人前の漁師となりたい。
―よくやったな。
自らにも他人にも厳しいあの人に褒めて貰えるなら、自分は何でもするだろう。
想いに浸りながら、歩いてゆく。
と、彼は少し前方に奇蹟―信じられないものを見た。
彼が今まさに自らの未来を暗示していると思ったその先に、眞矢歌が立っている。それがほんの偶然にすぎないのはもちろん理解していたが、悠理は眼にした突然の美しい光景に見惚れた。
眞矢歌は波打ち際に佇んでいた。淡いピンクのカットソーに白いコットンのロングスカート。スカートの裾を大きくたくし上げ、白い脚を殆ど太腿が見えるまで惜しみなく晒している。
空いている方の手には小さな四角い箱のような物を持っていた。小脇に挟んでいるのは、浜ゆうの花束のようである。昨日は一つに結わえていた長い髪は解き流し、海風に嬲られるままに任せている。艶やかな漆黒の髪が烈しく後ろへとたなびいていた。
だが、不思議なことに、自分は叶うならば、この世界で生きてみたい、自分を試してみたいと思う気持ちがある。あの網元には不思議な魅力があった。この人になら、どこまでもついてゆきたいと素直に感じられるような。
今まで生きてきて、そんな風に思えたのは、自分の父親以外にはいない。父は一生涯、工事の現場監督で終わった。世間的には何の力も影響力も持たなかったけれど、悠理にとっては絶対的な力を及ぼす存在が父であった。
故郷から遠く離れたこの町で、そんな風に思える人にめぐり逢えたのも、奇しき縁と言わねばならない。
網元の下で漁師として一から学び、一人前の漁師となりたい。
―よくやったな。
自らにも他人にも厳しいあの人に褒めて貰えるなら、自分は何でもするだろう。
想いに浸りながら、歩いてゆく。
と、彼は少し前方に奇蹟―信じられないものを見た。
彼が今まさに自らの未来を暗示していると思ったその先に、眞矢歌が立っている。それがほんの偶然にすぎないのはもちろん理解していたが、悠理は眼にした突然の美しい光景に見惚れた。
眞矢歌は波打ち際に佇んでいた。淡いピンクのカットソーに白いコットンのロングスカート。スカートの裾を大きくたくし上げ、白い脚を殆ど太腿が見えるまで惜しみなく晒している。
空いている方の手には小さな四角い箱のような物を持っていた。小脇に挟んでいるのは、浜ゆうの花束のようである。昨日は一つに結わえていた長い髪は解き流し、海風に嬲られるままに任せている。艶やかな漆黒の髪が烈しく後ろへとたなびいていた。