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喪失、そして再生~どこか遠くへ~My Godness完結編

第2章 ♣海の女神♣

「それは?」
 興味を憶えて問うと、彼女はうっすらと笑んだまま応えた。
「米を酒に浸したものです」
「女神への捧げ物?」
「そうですね」
 眞矢歌は淡々と頷いた。
 やはり、薄く微笑んではいるものの、その面にははっきりとした感情らしい感情を見出すことはできない。
 悠理は思い切って訊ねた。
「俺、もしかして嫌われてる?」
 そこで、眞矢歌の瞳が初めて揺れた。
「私が、あなたを? 何で」
 それは俺の方が訊きたい。内心、悠理はもどかしい想いを堪えながら続ける。
「その―、何て言っていいかよく判らないけど、眞矢歌さんって、あまり俺と話したくなたさそうだし」
 流石に愛想が悪くて可愛げがないとは言えない。
 そこで、眞矢歌がふいに頬を紅くした。その表情は先刻までの妖艶な大人の女の顔ではなく、十代の少女のように幼く見える。
「ああ、そんな風に思っていたんですね」
 眞矢歌は首を振った。
「ごめんなさい。ちょっと恥ずかしかったものだから」
「恥ずかしい?」
 我ながら素っ頓狂な返事を返してしまったことに、悠理は死ぬほど後悔した。
 しかし、どう見ても二十歳は過ぎている女が同じ年格好の男に対して恥ずかしがるなど―少なくとも悠理の常識では考えられないことである。まあ、悠理が知っている女というのは、ホストクラブの常連であったり、キャバ嬢であったりするわけで。
 水商売で生きてきた彼は、客以外には必然的に一般女性と知り合う機会は限られていた。ゆえに、もしかしたら、眞矢歌のような女も存在するのか? と思えなくもない。
 が。それにしても、やっぱり妙だ。思春期の少女ならともかく、大人の女が言う科白か?

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