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喪失、そして再生~どこか遠くへ~My Godness完結編

第2章 ♣海の女神♣

 悠理の疑問はすぐに解消された。
「先輩はお兄さんのような存在だったの。だから、最初から男の人という感覚はなく、無理なくつきあえた。でも、かえって、それが悪かったのね。もし、先輩に対して、他の男の子たちに対するような隔たりがあれば、あんなことも起こらなかったでしょうけど」
 後はお決まりのパターンであった。高校生同士のカップルが交際を続けた末に妊娠。水商売の世界で生きてきた悠理には、特に愕くようなことではない。
 しかし、ごく普通の女子高生には大変な出来事だったろう。眞矢歌が今、ここに一人でいるということは、その男とは別れたに違いない。悠理はその先が気になって堪らなかった。
 もちろん、単なる好奇心ではなく、眞矢歌を妊娠させ、去っていった卑劣な男に対する腹立ちからだ。
 眞矢歌がまた自嘲めいて笑う。
「私、どうしたら良いか判らなかった。一人でこっそりと検査薬を試してみたら、赤ちゃんがいることが判って。病院に行くのも怖くて、ずるずると引き延ばしている中に、お腹はどんどん大きくなってくるし。でも、相談するのなら、まずは赤ちゃんの父親である彼だろうって、彼に勇気を出して打ち明けました」
 眞矢歌の儚い期待は見事なまでに打ち砕かれた。彼女は〝生んでくれ〟という言葉を期待していた―というより、当然、彼がそう言うものだと思い込んでいた。
 でも、彼は顔を引きつらせたかと思うと、長い間何も言わなかった。とどめの科白が
―頼むから、誰にも言わずに病院に行ってくれ。人には知られないように堕ろしてくれ。
 だった。
 堕胎手術に必要な費用は何とかして工面するが、病院には付いてゆけないから、一人で行って欲しいと、彼は必死の形相で言った。
「そんな―そんな馬鹿な話があるか!」
 つい乱暴な言葉が飛び出し、気になって眞矢歌の方を見たけれど、眞矢歌はやはり彼のことなど眼中にはないようだ。

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