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喪失、そして再生~どこか遠くへ~My Godness完結編

第2章 ♣海の女神♣

 だが、と、悠理は即座に思い至った。
 眞矢歌を冷たく突き放した卑劣な男とこの自分にどれほどの違いがあるというのだろう? かつて自分は復讐という理由で実里を陵辱し、妊娠させてしまったのだ。自分の犯してしまった過ちから考えれば、眞矢歌の男はまだ女に無理強いをしなかった分だけマシだともいえた。
 ただ、悠理とその男が決定的に違うのは、生まれてくる子どもの存在を否定しなかったことだろう。今更、こんなことを言えた筋合いではないけれど、実里の妊娠を柊路から知らされた時、むろん烈しい衝撃を受けた。が、その中に小さな歓びがあったことは否定できない。
 やがて、その小さな歓びは希望の芽となった。実里をレイプしたという事実が厳然としてある以上、彼女に何をどう説明して詫びようとも、受け容れて貰えないのは判っていた。それでも、自分の子どもを生んでくれる女なら、できる限りのことはしようと考えたし、子どもも認知しようと思った。
 しかし、悠理の申し出は真っ向から拒絶された。実里は可愛らしい顔を恐怖と怒りに引きつらせながらも、悠理に言った。
―あなたに縋るくらいなら、お腹の子と一緒に死ぬわ。
 そのひとことは悠理を徹底的に打ちのめした。そう言われても仕方のないことをしたのは確かだが、まさか、そこまで言われるとは流石に考えていなかった。
 恐らく自分が甘かったのだろう。女にとって抵抗を力でねじ伏せられ、身体を奪われる―これ以上の屈辱はない。しかも、実里はバージンだった。それをレイプという最も残酷な形で根こそぎ奪われ、滅茶苦茶にされた挙げ句、レイプした男の子どもを宿した。
 その時点で、実里が悠理を殺したいと思うほど憎んでいたとしても不思議ではない。
 折角授かった生命を抱えた実里が自分のために自殺などしたら一大事である。悠理にとって、実里の胎内に宿った二人めの我が子は、生きるすべての支えであった。実里の側にいて、我が子の誕生を見守りたいという想いは強かったけれど、実里の気持ちを考えれば、身を退くしかなかった。

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