喪失、そして再生~どこか遠くへ~My Godness完結編
第2章 ♣海の女神♣
ここではない場所ならどこだって良い。
遠くへ、ひたすら遠くへ。
ここではないどこかに誰か、俺を連れていってくれ。
魂の咆哮がもしかしたら、故郷から離れたこの小さな港町に届いたのだろうか。孤独な魂と魂が図らずも呼び合い、引き寄せられるように自分たちはめぐり逢ったのだろうか。
悠理は普段から現実志向で、迷信や運命論などおよそ信じる質ではなかった。しかし、今、自分にあまりにもよく似て心に深い孤独と闇を抱える眞矢歌という女にめぐり逢い、この世には人間には理解できない不思議な運命の力というものが働いているのではないか。ふと、彼らしくもなく考えてしまう。
「何でなのかしら。彼が去って、入院して手術を受けた後、心にぽっかりと大きな穴が空いたみたいで、涙も出なくなってしまったの。失ったのは子宮だけなのに、心まで一緒になくしたみたいで、幾ら哀しくても泣こうに泣けなくなって」
なのに、と、眞矢歌の声が揺れた。
「不思議だわ。溝口さんと話していると、涙が出てきたみたい」
悠理の切れ長の双眸が大きく見開かれる。
眞矢歌は本当に泣いていた。白いすべらかな頬を大粒の涙が流れ落ちていた。
「まるで失った心が戻ってきたようなの」
彼女は呟くと、両手で顔を覆った。低い嗚咽が二人だけの空間に響く。
悠理の手が躊躇いがちに伸びた。眞矢歌に向かって伸ばされた手を改めて見つめ、彼は意を決したように彼女に近づいた。
それは、ごく自然ななりゆきだった。悠理は眞矢歌を引き寄せると、その広い腕の中に閉じ込めた。
「溝口さん?」
眞矢歌の声にわずかに狼狽が混じる。
「黙って。せっかく涙が出るようになったのなら、今は泣けば良い。泣きたいだけ泣いたら、きっと心だって戻ってくるから。だから、何も余計なことは考えずに、泣いてごらん」
その言葉が合図となったかのように、うっと、眞矢歌がしゃくり上げた。
遠くへ、ひたすら遠くへ。
ここではないどこかに誰か、俺を連れていってくれ。
魂の咆哮がもしかしたら、故郷から離れたこの小さな港町に届いたのだろうか。孤独な魂と魂が図らずも呼び合い、引き寄せられるように自分たちはめぐり逢ったのだろうか。
悠理は普段から現実志向で、迷信や運命論などおよそ信じる質ではなかった。しかし、今、自分にあまりにもよく似て心に深い孤独と闇を抱える眞矢歌という女にめぐり逢い、この世には人間には理解できない不思議な運命の力というものが働いているのではないか。ふと、彼らしくもなく考えてしまう。
「何でなのかしら。彼が去って、入院して手術を受けた後、心にぽっかりと大きな穴が空いたみたいで、涙も出なくなってしまったの。失ったのは子宮だけなのに、心まで一緒になくしたみたいで、幾ら哀しくても泣こうに泣けなくなって」
なのに、と、眞矢歌の声が揺れた。
「不思議だわ。溝口さんと話していると、涙が出てきたみたい」
悠理の切れ長の双眸が大きく見開かれる。
眞矢歌は本当に泣いていた。白いすべらかな頬を大粒の涙が流れ落ちていた。
「まるで失った心が戻ってきたようなの」
彼女は呟くと、両手で顔を覆った。低い嗚咽が二人だけの空間に響く。
悠理の手が躊躇いがちに伸びた。眞矢歌に向かって伸ばされた手を改めて見つめ、彼は意を決したように彼女に近づいた。
それは、ごく自然ななりゆきだった。悠理は眞矢歌を引き寄せると、その広い腕の中に閉じ込めた。
「溝口さん?」
眞矢歌の声にわずかに狼狽が混じる。
「黙って。せっかく涙が出るようになったのなら、今は泣けば良い。泣きたいだけ泣いたら、きっと心だって戻ってくるから。だから、何も余計なことは考えずに、泣いてごらん」
その言葉が合図となったかのように、うっと、眞矢歌がしゃくり上げた。