喪失、そして再生~どこか遠くへ~My Godness完結編
第1章 ♣ここではないどこかへ♣
だが、それは永遠に叶わぬ夢であった。レイプされた女とレイプした加害者。更に亡くなった早妃を間に、二人はいまだに妻を轢き殺された男であり、不幸にも事故を起こした加害者でもあった。
それはたとえ悠理には忘れることができたしても、実里には耐えられないことだろう。
結局、悠理は逃げ出したのだ。大切な愛しい者たちの住む同じ町にいることに耐えられず、苦しみのあまり逃げてきた。
彼は怖かった。自分がいつか実里や子どもに逢いたいという欲求に抗えなくなり、ふらっと彼女たちの前に姿を見せてしまうのではないかと怯えていた。
ここではないどこかへ、自分を知らない人たちの住む遠い町へ行けたなら。心で実里たちに別離を告げたあの日から、その想いは常に彼に纏いついていた。そして、今日の早朝、気がついたら、ナップサックに数日分の着替えと有り金を突っ込んでバスに乗っていた。
行き先も決まってはいない、あてどのない旅。それは、まさに現実からの逃避に他ならない。
それでも良かった。ほんのわずかな間だけでも、実里や我が子への想い―執着から眼を背けていられるなら、彼はどこへなりと行くつもりだった。執着してはならない、自分は未練を抱く資格すらないのだと思うのに、理性では納得できても、感情が制御できない。
理性で辛うじて抑え込んでいる感情はいつも不穏に暴れ出そうとしている。
風の噂で、実里は片岡柊路(しゅうじ)と結婚したと聞いた。柊路は悠理の無二の親友であった。かつて悠理も柊路もF町では結構名の知られたホストクラブの人気ホストだったのだ。悠理に実里の妊娠を告げたときに宣言したとおり、柊路はあれからホストを辞め、自動車整備士の資格を取るべく整備工場で働きながら勉強中だという。
早妃の墓前で産気づいて意識を失った時、実里はうわごとで柊路の名前を呼んでいた。柊路も実里に惚れていると公言してはばからなかったから、あの二人が結ばれるのはごく自然なことに思えた。二人とも上に何とかがつくほどお人好しで、律儀で優しい。悠理が見ても、お似合いのカップルだ。
それはたとえ悠理には忘れることができたしても、実里には耐えられないことだろう。
結局、悠理は逃げ出したのだ。大切な愛しい者たちの住む同じ町にいることに耐えられず、苦しみのあまり逃げてきた。
彼は怖かった。自分がいつか実里や子どもに逢いたいという欲求に抗えなくなり、ふらっと彼女たちの前に姿を見せてしまうのではないかと怯えていた。
ここではないどこかへ、自分を知らない人たちの住む遠い町へ行けたなら。心で実里たちに別離を告げたあの日から、その想いは常に彼に纏いついていた。そして、今日の早朝、気がついたら、ナップサックに数日分の着替えと有り金を突っ込んでバスに乗っていた。
行き先も決まってはいない、あてどのない旅。それは、まさに現実からの逃避に他ならない。
それでも良かった。ほんのわずかな間だけでも、実里や我が子への想い―執着から眼を背けていられるなら、彼はどこへなりと行くつもりだった。執着してはならない、自分は未練を抱く資格すらないのだと思うのに、理性では納得できても、感情が制御できない。
理性で辛うじて抑え込んでいる感情はいつも不穏に暴れ出そうとしている。
風の噂で、実里は片岡柊路(しゅうじ)と結婚したと聞いた。柊路は悠理の無二の親友であった。かつて悠理も柊路もF町では結構名の知られたホストクラブの人気ホストだったのだ。悠理に実里の妊娠を告げたときに宣言したとおり、柊路はあれからホストを辞め、自動車整備士の資格を取るべく整備工場で働きながら勉強中だという。
早妃の墓前で産気づいて意識を失った時、実里はうわごとで柊路の名前を呼んでいた。柊路も実里に惚れていると公言してはばからなかったから、あの二人が結ばれるのはごく自然なことに思えた。二人とも上に何とかがつくほどお人好しで、律儀で優しい。悠理が見ても、お似合いのカップルだ。